第六十八話 世界の果てまで
ついに新章「時の旅路」編開幕です!!!!!!
次に俺が目を覚したのは、女郎蜘蛛迷宮でも、ましてや死後の世界でもなくどこかの安宿の一室であった。固いベッドに、隙間風、とてつもない安宿。あれは夢で、意識を失った俺をアンジーたちが連れ帰って看病してくれていた。などという希望的な観測はすぐに打ち砕かれることになる。周囲を見回すとそこには一人の男がいた。
「お目覚めになりましたか??」
その男は異様であった。全長は2m弱。この世界の住民には珍しくどこか中国を思い起こされる服を着た男。そもそも、俺はこんな男知らない。そして何より、異常なのはその姿形である。男は「虎」であったのだ。厳密には、虎を二足歩行にし、手足の造形は人間のそれへ近づけ、最後に服を着せた。といったような姿だ。
「ひっ!!!」
「その様子であれば、怪我や病気の心配はございませんね」
虎顔は俺に淡々と状況を説明した。この近所を散歩していたら、倒れている俺を見つけ拾って介抱したということ、ここは「ロウサイ」という地方にある田舎町であると言うこと、男は名を「リイ」と名乗った。
「こんな姿をしていますが、あなたを取って食おうだなんて思いませんよ」
そう語る男の姿からは教養の高さや育ちの良さといったものを感じさせた。
「し、失礼しました。助けていただきありがとうございます」
「いえ、あなたから同郷の人間のような匂いがいたしましてね」
「え、あの、その、俺は獣人族ではないのですが.....」
「ああ、それは私もこんな姿になる前には君のような黒髪黒目だったのです」
「え?」
「私は、気がづいたら虎になっていたのです」
「気づいたらって.....魔術、みたいなことですか?」
「さあ?ただ、人の理を超えた力であることは間違い無いでしょう」
「それって大丈夫なんですか?」
「ええ、野菜や魚といったものも食したいと思いますし、病気やその他の異常も見当たりません。それに、この体、頑丈なんです。わからないことをあれこれ考えるくらいならば受け入れてしまった方がよほど賢いと私は考えています」
「....なるほど....というか、リイさんは何をされている方なんですか?」
「.....この世界で言うところの「獣狩り」です。ご存知ですか?」
「ええ、というか俺も同業者です」
「なるほど.....」
リイは俺の体を品定めするかのように見る。しかし、何か今の会話に違和感を感じる。なんだろうか。
「あ、あの....」
「これは失礼しました。それでは改めまして、私はリイと申します。そしてここは私が借りる部屋。どうぞ気の済むまで滞在していただいて結構です」
「俺は【主人公】といいます。冒険者をしています。ランクは一応Sランクです」
俺のその言葉を聞いたリイは何をいっているんだこいつはといった感じで俺を見つめる。
「?、冒険者とは?それにランクとは?」
「え?」
何を言ってるんだこの男は。この男も、冒険者をしていると言っていたじゃないか.......いや待て、この男、さっきなんて言った?「獣狩り」と言っていなかったか?
「その、突然で申し訳ないのですが、今の西暦を教えていただけませんか?」
「?、ええ。確か今年は......」
「ええええええええええ!!!!!!!!!!!」
リイの口から語られた西暦は俺がいた時代のおよそ300年前。【剣豪】の時代であった。
「どうかされましたか?」
リイは不信感マックスといった様子で俺へと尋ねる。どう説明したものか
「その、なんといいますか、俺は未来から来たといいますか、タイムスリップしたといいますか.....」
今思えば、なぜこんな見ず知らずの彼にこんなことを突然話したのだろうか、彼のその丁寧な物腰が俺の警戒心を解いたのか、それとも彼からほのかに感じた俺と似た香りに惹かれたからなのか
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