第六十八話 よくある?話と言ってしまえばそれまでで
このお話にピンと来なかった方は足利義輝の過去回想を再度読んでみてください
俺は目を覚ますと水の中を思わせる暗闇を漂っていた。
「俺は死んだのか?」
ゴルドが魔石を手に取った瞬間、俺は意識を手放しこんなところにいる。
「アンジーや他のみんなは無事だろうか」
しかし暗闇は何も答えない。そんな時、小さな光が暗闇の先に見えた。俺はそこへと身を捩って近づく。その光は何か窓のようで、その先に景色を映し出していた。その景色は見慣れた前の世界の光景であった。俺が通学に使っていた駅。そして、それを認識した瞬間、俺は駅のホームに立っていた。その人混みの中をかき分けると見覚えある冴えない男を見つける。それは俺だった。俺の目の前に俺がいる。このなんとも不思議な光景に困惑しつつも懐かしさのようなものを感じていた。俺の前にはあの名も知らぬサラリーマンがいる。俺はと言うと物憂げな顔をして音楽に夢中だ。
「おい!」
なけなしの勇気を振り絞って話しかける。しかし、反応がない。なんなら、触れない。触ろうと手を伸ばすと手がすり抜けるのだ。するとにわかに周囲が騒がしくなる。思い出した。これは俺がこの世界に来るきっかけになった出来事。俺は急いで喧騒の方へと目を向ける、そこには俺を突き落とすことになる男がいた。しかし、その男は明らかに「異常」であった。男の目は大きく見開かれて、その奥は狂気に満ちていた。その顔は人間離れした悪魔のような形相をしていた。何より、その姿かたちは全く似ても似つかないのにも関わらず猿に感じた不気味さを感じた。そうして、その男は俺を突き落とす。俺はそのままホームから落下し、ちょうどやってきた電車に轢かれて死んだ。それを見届けた俺はまた意識を闇へと手放した。
桃源郷編はこれにて完結となり、次章へと移ります。次章からは今回以上にボリュームもマシマシになりますのでご期待くださいませ。
桃源郷編の完結に際して、少しここで自分語りをさせていただきます。
昨年十月に始まったこの物語ですが私個人の妄想の備忘録として連載を始めました。当時は誰か一人でも読んでくだされば万々歳といった気持ちでした。しかし、私の予想に反して多くの方にこの作品に触れていただけたことに感激しております。総合P Vは2万へと迫り、多くの方からブックマークや評価をいただいております。私の独りよがりの自慰行為にここまで多くの皆様を付き合わせてしまったことは大変申し訳なく思っておりますが、そういった皆さんを失望させないような物語を展開し、読んだあともう一度手に取っていただけるような結末をご用意することをここにお約束いたします。それでは、今後とも【主人公】くんたちの冒険をよろしくお願いいたします。