第六十三話 信じた
俺の策.....それは結局のところ捨て身の策だ。現状、猿の攻撃は強力ではあるものの、あくまで「強力」という域を出ないものだ。反射したところで、イタズラに魔力を消費するだけであるし、むしろ今の均衡を悪い方向に崩すだけかもしれない。ただ、今の状況で「決定力」であるアンジーを待つ余裕もない。そこで、この策を思いついた。
中身は簡単だ。猿の攻撃にこちらがバフをかけてやった上で反射するのだ。ただし、攻撃力強化呪文を使えるメルトには魔力は残っていない。さて、どうするか。簡単だ、速度を利用するんだ。まあ、理屈をこねるよりも実践だ。
「....ゴルド!!後ろに下がれ!!」
「了解」
ハンゾーの掛け声でゴルドが猿から離れた瞬間、ハンゾーは毒の塗られたジェフの遺品でもある鉄線を猿の足へと投げ縄の要領で投擲する。ハンゾーの技術力とこれまでの疲労が重なり、猿はバランスを失い転倒する。そして俺はザックの剣を腰溜めの姿勢で構えて猿へと突っ込む。俺自身に敏捷力強化の呪文をかけて。
「主よ、我が歩みに韋駄天の祝福を、我が足にアキレスの英霊を宿したまえ」
結果的に俺は自動車の最高時速を超える超スピードで猿へと突っ込んでいく。機動力を一時的に失い、メルトの度重なる妨害によって尽きた魔力では魔術は行使できない。便利な手駒は切り札含めてモヤとなった。当然、猿は迎撃すべく俺へと攻撃する。じゃあ、なにで?拳に決まっている。猿は俺の愚かな蛮勇を嘲笑うかのような顔で俺めがけて渾身の右ストレート。俺はそれを反射する。
ッキーン!!!!!
今まで何度も聞いたこの音が今回はより明瞭に響いた。
対象への衝撃の数値は「質量×速度」で求められる。人知を超えた魔術によって俺の体はおよそ60kg肉の弾丸となって猿の体へと衝突する。そんなものに渾身の一撃を叩き込んだらどうなるか。ましてや、相手に伝わるはずの衝撃まで自分に返ってきたらどうなるか、言うまでもないだろう。猿の体はグチャグチャの見るに耐えない肉塊になった。
ふう