第六十一話 剣客伝説 Ⅱ
初めて剣を握った日。師匠の剣の動きを見よう見真似で再現した。彼はそんな私の動きを見て、私を天才だともてはやし、兄弟子たちの誰よりも私へと情熱を注ぎ込んだ。それから、十年。私の剣術はいつも誰かの真似だった。一撃必殺を旨とする流派の達人との交流仕合では彼の剣技を盗み見て、彼の得意技で彼を討ち果たした。演舞のような華麗な動きが持ち味の剣士との仕合では、彼のその「舞」の技術を取り込んで、彼の心身を砕いた。戦場で磨き上げた我流の剣術を操る傭兵との殺し合いでは、彼の何十年にも及ぶ戦場での記憶をたった数度の剣戟の合間で追体験した。私と戦った剣士は私のこれを「猿真似」だという。私の美しさを見た女は私のこれを「傲慢の証」だと言う。彼らは私の「本当」を見ることなく私の上べだけを見る。そうして私は、「猿真似」をすることをやめ、「美しさ」を呪いだと思い込むようになった。
しかし彼らは違った。
彼らは私の目を見て話してくれる。剣術ではその努力を褒め、美しさやよりも優しさや明るさを褒める。彼らの行動には打算がない。
黄金の矛の皆は歪な私の才能を努力の証と讃えてくれた。
【主人公】さんは私の本当を肯定してくれた。言葉で何かを言ってくれたわけではないけれど、私の心を優しく包み込んでくれた。
【主人公】さんはこんな出来損ないの私を愛してくれると言った。
優しい【主人公】さんが大好き
強い【主人公】さん、が大好き
でも、あなたを守れない弱い私は大嫌い。
みんなに助けられてばかりの私も大嫌い。
もう、自分の「本当」に目を背けるのは辞める。
生き汚くても、醜くたって、傲慢に映ったって、重くたって、なんでもいい。
「私は猿にでもなんでもなってやる」
大好きな人たちのためならば、この命はちっとも惜しくない
間一髪、彼の攻撃を受け流す
そして、私は剣を構え直す。
「..................」
【剣豪】は私のその覚悟のようなものを感じ取ったのか、一度私へと振り下ろしかけていた刀を引くと飛び退いて再度構え直す。
まるで、剣士同士の仕合かのように私の出方を伺う【剣豪】のその佇まいからは猿の魔術のシステムを超越した「矜持」のようなものを感じさせた。
私は、彼へともう一度視線を向ける。
彼の構えはこの世界ではあまり見ないものだ身を深く、構えは浅い。しかし、彼の放つ剣技は足の腱や喉といった急所を遠心力を利用せず最短の動きを筋力による加速で切り裂くという面と全身全霊の一撃必殺の初太刀で相手を「受け」もろとも殺す、という異質な二つの一撃必殺を併せ持つ。
そもそも大陸のメジャーな剣術にはあまり見られないものだ。「剣豪流」とでも言うべき彼の剣術。これをどう攻略するか......
まず、動いたのは【剣豪】だ。
彼が選択したのは「技術による必殺」
狼を思わせるスタートダッシュで私の懐に飛び込んだまま、私の喉を狙う。これまでも何度か見た技だ。
私は予見していた。
本来ならば、間合いの外側に飛び退いてかわすのがセオリー。
ただ、私はここであえて【剣豪】の懐へと飛び込む。そのまま狙うのは喉だ。【剣豪】はまさに不意を突かれたといった様子で反応が遅れてしまった。喉を切り裂かれた【剣豪】は、その痛みにも無頓着といったようであったが、着実にダメージが入っている。自分の技を喰らうのは初めてであろう【剣豪】は、再度私へと切り掛かる。
よく見ると彼の腕は血管が浮き出るほどに刀を強く握っている。私は、今度は彼の刀の軌道に合わせるかのように同じ動きをする。
「力比べなら、負けませんよ」
この勝負の結果がどうなるかは先ほど示したばかりだ。体勢を崩した【剣豪】はそのまま私に頭部を切断された。
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バ先の社員が怖いです