第六十話 剣客伝説 Ⅰ
しばらくアンジーちゃん視点すわ
【剣豪】と対峙する。彼の纒う闘気は今まで見てきたどんな相手よりも練り上げられている。彼の装いは細い刀一本だけだというのに、そのプレッシャーはは鎧を着込み盾を構えたゴルドのものを凌駕する。たった一度刃を交わしただけで、その格の違いを実感する。私がこれまでの人生で修めた剣術が伝説にどこまで通用するか、これはただの殺し合いではない。私の人生の証明だ。
私が構えるのは剛派一刀流の構え、彼の流水のような「受け」に技術で対抗するのは至難の業だ。ならば、強引にそれを破壊するまでだ。腕力、この一点においては決して誰にも負けないという自信がある。たとえ、【剣豪】であっても。私は生まれつき腕力が強かった。10歳になる頃には大人の男に力負けすることがなくなった。そこから、血の滲むようなトレーニングを経て、怪力は私のアイデンティティとなった。
刀を腕に血管が浮き出るほどの渾身の力で握り、【剣豪】へと切り掛かる。
鋼と鋼が衝突する。火花が散り、ギリギリと金属音が軋む。私の目論見は一定の成果を示したようで、【剣豪】は受け流すことができず、ジリジリと後退りをしている。好機と見た私は追撃をかける、鍔迫り合いを行いながら火属性魔術を詠唱する
「火の精霊よ、我が怒りを以って、一切を灰燼へ、」
私の火玉はメルトさんのものとは比べ物にならないほど小さいが、それでも喰らえばタダじゃ済まない。
しかし、【剣豪】は甘くなかった。魔術を放った瞬間の気の緩みの隙を突かれて、私の一撃を受け流した【剣豪】はそのままの動きで火の玉を切り裂いた。
「.....ははは」
魔術を切るなどという現実離れした芸当を見せられた私は、思わず笑ってしまった。たった数合の剣戟で私の心を完全に打ち砕いてしまったのだ。スローモーションで迫ってくる刀が見える。終わりを悟って、それを受け入れようとした刹那、ある日の光景が明滅した。