第五十九話 虎穴に入らずんば虎子を得ず
後半はゴルド視点すね
俺はこの状況を打開すべく、行動を起こす。まずは決死の覚悟でエリーナへと突進する。そのままエリーナの肩を掴み、ジェフの方角へと走る。エリーナを盾にする形でジェフへと走っているという構図である。エリーナは小柄で力が弱い。エリーナは俺からの拘束を解くために俺へと先ほどの水鉄砲を放つ。しかし、先ほどのようにはいかない。魔術の起点が術者本人である以上、接近してしまえば直線で俺を狙わなければならない。俺はそのまま魔術を反射する。反射した魔術はエリーナの全身を貫くと同時に、その延長線上にいたジェフの体を貫いた。そして、二人の体はモヤになって消えた。
「ザック、エリーナ、ジェフ、ごめんな。そして、ありがとう」
ただし、感傷に浸っている暇はない。
ゴルドたちの方へと応援に向かわなければ。
「なかなか頼もしくなったじゃないか、【主人公】くん。」
そんな風に彼の成長に浸るのもいいが、目の前の猿をなんとか足止めしなければならない。この魔物、かなり強い。この前のアーマードワイバーンの異常個体。あれもかなり手強かったが、この猿はその比ではない。一瞬のミスで僕は死ぬ。そして、それは後ろの二人やアンジー、【主人公】くんも同様だ。
僕がしくじれば全てが終わる。ただし、それは絶望というわけではない。猿の攻撃手段はあの趣味の悪い魔術、「千年伝説」の記述にあった火属性魔術、そして体術だ。猿の体術は僕の盾と鎧が完璧に押さえ込んでいる。魔術に関してはメルトが後方で発射を妨害してくれている。そして、僕の背後から、ハンゾーが苦無による援護射撃を行ってくれている。猿は確実に弱っているはずだ。奴の手駒があとどの程度いるかはわからないが、奴の性格を考慮すればしばらくは出さないだろう。あとは、アンジーか【主人公】くんが合流すれば趨勢はこちらへと傾く。それまで耐えるだけだ。
「黄金の矛」には二度の転機があった。
一つ目はアンジーの加入だ。彼女の加入以前は、僕が耐え、メルトとハンゾーが殺すという戦術をとっていた。この方法で僕たちはSランカーになったのだが、この戦術には矛がなかった。確かに、メルトの魔術は強力だが、それに依存してしまえば今のような状況に陥った際に簡単に崩壊する。そんな時に、アンジーが加入した。彼女の剣術は僕たちの「矛」になったのだ。
そして、二つ目は【主人公】くんの加入だ。彼の加入は僕たちに切り札を与えた。先のアーマードワイバーンのような盾や鎧ではどうしようもない相手や、途方もない火力を持つ相手、そんな魔物であればあるほど強くなる彼の存在。これは僕たちをまた一つ上のステージへと押し上げた。彼らのどちらかが相手を片付けてこちらへ合流すれば、この均衡はこちらに都合良い形へと傾く。
だから僕は耐えるだけ、彼らの盾として最善を尽くす。
仲間を守る時の僕は、誰にも負けない。