表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

65/372

第五十七話 錆

俺の名前はザックだ。Bランクパーティ「鉄の掟」のリーダーを務めている。俺たちは四人....間違えた、三人のパーティで魔術師のエリーナ、盗賊のジェフ、そして剣士の俺、とかなりバランスがよく、たった三年でBランクへと到達したという実績はかなりのものだと自負している。俺たちの戦力はあの「黄金の矛」に負けずとも劣らないものであると考えている。みんないいやつで、この前抜けちまった【主人公】ってやつもいいやつだった。あいつを誘ったのはジェフで、最終的にあいつの成長を置き去りにして俺たちが強くなっちまったことに後悔と申し訳なさを感じていた。何よりも、俺たちがかねてからの夢で七大迷宮の一つである「女郎蜘蛛迷宮」へのチャレンジをしようとしていることが影響した。あいつには申し訳ないが、実力からして足手纏いになりかねない。だから、みんなで話し合ってあいつをパーティから外すことにした。エリーナなんて最後はボロボロ泣いていた。俺もジェフも不覚にもウルっときちまった。そんなあいつが「黄金の矛」に拾われて大物のワイバーンを仕留めたって話を聞いた時はもう一度呼び戻そうかとも思ったが、やめた。あいつの顔は俺たちといた頃と違って太陽のように輝いて見えた。実はあの時、俺は泣きそうなのを必死に堪えていた。ただ、みんなに言ったら笑われるから墓場まで持ってく秘密だ。

そんな俺たちは【主人公】と別れた足で、このセウントの街を訪れ、数日間の準備を経て「女郎蜘蛛迷宮」へと突入した。内部は七大迷宮の一つとは思えないほど難易度が低く、拍子抜けしてしまった。これは【主人公】へのいい土産話になるぞとまで思っていた。しかし、その後俺たちはここがなぜ七大迷宮なのか理解することになる。


「へへへ、結構甘っちょろいなあ」


「.....ザック、油断、だめ」


「エリーナの言う通りだ。用心しろよ」


「わかってるやい」


「にしても、もう最深部かー、ほんとにあってんの?」


「ああ、間違いないさ」


そうして俺たちが迷宮の広場のような場所の中央へと到達するとそこで俺たちを待っていたのは、女の上半身に蜘蛛の下半身を持つ魔物。女郎蜘蛛であった。

「お!あれがボスだろ、絶対!!」


「だろうな、ザック、エリーナ作戦通りに行くぞ」


「おう」


「.......... コク」


「水よ、魂の奔流よ、全てを洗い流せ」

エリーナの詠唱と共に巨大な水流が女郎蜘蛛へと迫る。奴はそれを避けきれず、六本ある足のうち二本を失った。そして、女郎蜘蛛はバランスを失いよろめく。今度はジェフが毒を塗った鉄線を残った足目掛けて投擲する。毒の痛みと足に絡まった鉄線によって完全に歩行能力を奪われた奴の頭部へと俺が剣を振りおろす。

女郎蜘蛛はそのまま黒いモヤとなって消えた。俺たちを襲ったのは歴史的な偉業を成したと言う達成感や高揚感ではなく、疑問だ、「え?これで終わり?」とでも言うような空気が場を支配した。しかし、その疑問への答えは俺たちを地獄へと引き摺り込む絶望となって姿を現した。

「もう終わりかよ、ったくよお飛んだ拍子抜けだぜ、なあ?ジェフ?」

しかし、それに応える声はない。

「おい!無視すんなよ!」


「.......!!」

そこに()()()のは、血まみれになって頭部を失ったジェフと毛むくじゃらの猿のような怪物の姿であった。遅れてそれに気がついたエリーナは腰を抜かしてしまっている。

「縺?◆縺?縺阪∪縺」

奴は意味不明な鳴き声を発すると、俺たちを無視するかのようにジェフの頭部へと齧り付いた。

「おまええええええええええ!!!!!!」

俺が反応するよりも早く、激昂したエリーナが魔術を猿に向けて放つ。しかし、奴はそれを曲芸師のような動きでかわすと黒い影のようなものを発生させた。そのモヤはだんだんとジェフの姿を形作っていく。そのままジェフの影はエリーナへと突進する、短剣を片手に。

「え、ジェフ、なん....で?」

エリーナの体は心臓を中心にみるみるうちに赤く染まっていく。

俺はというと、恐怖と何が起きたかわからない混乱で金縛り状態へと陥っていた。

「ジェフ....エリーナ.....」

そんな俺を無視して猿はエリーナの小さな頭を切り離すとそのまま丸呑みした。その後、エリーナの黒い影が出現し俺へと魔術を放つ。俺はそれを間一髪回避すると、思考を巡らせる。あの黒い影を倒せばまだ二人は助かるかもしれないというか細い希望に縋るかのように。

「.....体の一部を食べたら、影が出現した....。それが魔術のトリガーなのか」

食事を終えた猿は俺の方を向くとニヤリと笑い、俺へと指を刺して何か言う。

「縺雁燕繧峨?√↑縺九↑縺九?∝シキ縺」

しかし、俺はそれを無視して剣を構えて突っ込む。

「縺ァ繧ゅ?∽ソコ縺ョ譁ケ縺悟シキ縺」

猿の回し蹴りが俺の頭部を揺らす。俺はそのまま壁に衝突する。

「(エリーナ、ジェフ、ごめん)」

こうして俺の意識は暗黒へと堕ちた。





やっと「鉄の掟」についてのお話が書けました ^ ^

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ