第五十四話 闇を欺け Ⅲ
迷宮に潜っておよそ3時間が経過した。「千年伝説」によればここは迷宮の中層部であり、俺たちはやっと折り返し地点へと至ったことになる。俺はここまで一切「反射」を使用していない。これはゴルドからの指示であり、強力なボスとの戦闘に備えての策である。さすがは迷宮探索を生業とするSランカーだ。七大迷宮を俺のような荷物を抱えながらでも難なく進んでいく。しかし、おかしいのだ。いくら「黄金の矛」が強かろうと、そんなSランカーですら命を落とすと言われる七大迷宮の道中がこんなに生易しいものではないはずなのだ。その違和感をまず口にしたはゴルドであった。
「いくらなんでも、敵が弱すぎるね.....」
「ええ、拍子抜けしちゃうわね」
「.........本当に、あの女郎蜘蛛迷宮なのか?」
「この程度って言ったらアレですけど、【剣豪】とホワイト以外踏破していないというのはちょっと無理がありませんか?」
俺の発言を聞き、皆が黙り込む。そして、そんな沈黙を打ち破ったのはアンジーだ。
「この迷宮はもしかして、主である猿の強さ一点のみで何百年も外敵を退けた...ということになりますよ....ね?」
「アンジーの言う通りである可能性が高いね、本によれば両断されたはずの猿、奴がなんらかの手段で生きながらえた。もはや、そう考えるしかないだろうね」
そのゴルドの発言は俺たちの心に重くのしかかる。しかし、後悔はない。そして、俺たちは例の広場へと至った。