第五十三話 闇を欺け Ⅱ
女郎蜘蛛迷宮の中は「千年伝説」の記述の通り、蜘蛛型の魔物が蔓延っていた。また、内部の構造も描写の通りであり、まるで【剣豪】とホワイトの冒険を追体験しているかのような気分になった。
「剣豪伝説......おとぎ話だとばかりに思っていたが案外全て実話だったりしてな」
感嘆しつつも警戒を一切緩めないこの男はハンゾーだ。
「.....これが、あの【剣豪】も通った道.........」
アンジーはそう呟きながら床を凝視している。前の世界ではあまり縁がなかったもののアニメの聖地なんかを巡礼するオタクを思わせるような輝いた目であった。アンジーが元気になってくれたことは嬉しく感じるものの、さすがに床にまで感動しているのは少々心配をしてしまう。
「本当にそっくりなのね....」
と、少し驚いたような感想を漏らしたのはメルトだ。
「メルト....君、もしかして半信半疑だったのかい?」
そんな困惑を見せるのは我らがリーダー、ゴルドだ。
「違うわよ、ただあまりにも描写のままだから驚いちゃっただけよ」
「ならいいんだけどね....」
「ここが迷宮か.....」
俺はというと今まで迷宮に潜った経験がなくこんな感想を漏らすほどに迷宮というものに満ちる重い空気に圧倒されていた。俺は特別な魔術を扱えるとはいっても、それを使う基盤は平凡そのものだ。俺は彼らのような努力や経験に裏打ちされた確かな才能を持っていない。突然降って湧いた奇跡にすがっているだけだ。そんなことをこのような危険地帯であっても談笑する彼らを見て再認識した。
「安心してください!!私がいるかぎり【主人公】さんが危険な目に遭うことなんてありませんから!!!」
そんな俺の不安を察したのか彼女は俺を励ましてくれる。しかし、俺はかつての無力な俺ではない。こんなに俺を慕ってくれる彼女に報いるためにも、こんなところで弱気になるなんてありえない。そうして、彼らからの信頼に、彼女が俺にくれた愛に恩返しをするのだ。命に代えても。
「ありがとう、アンジー。でも、そのセリフは俺に言わせてほしいな。」
「えへへ、じゃあ....頼りにしてますね!!!【主人公】さん!」
こうして俺たちは一歩一歩着実に深い闇へと沈んでいく。その先にある光を追い求めて。
執筆途中で間違えて投稿してしまいました。こちら完全版になります。大変失礼しました。