第五十一話 剣豪伝説Ⅲ ー太陽の化身ー 終幕
【剣豪】は改めて現実へと目を向ける。なぜ今になって当時の記憶が頭をよぎったのだろうか、敵に囲まれて絶対絶命という状況、かそれとも久方ぶりの強者との戦いによる高揚感か彼にはわからなかった。しかし、一つだけ確かなことがあった。
「............................................感謝するぞ。おかげで冷静になれた」
【剣豪】は浅く息を吸うと、刀を再度構える。彼が思い出すのは自身の最期、彼へと畳と共に突撃する雑兵たちの姿であった。厳密には彼らの纏っていた決死の覚悟であった。
「......虎穴に入らずんば虎子を得ず、か」
そう呟くと剣豪は大きく振りかぶって猿へと突撃する。この時の【剣豪】の構えは俗に「蜻蛉」と言われる。薩摩の示現流に見られる構えであった。猿に肉薄した【剣豪】は渾身の力をもって頭上に構えた刀を猿の頭へと振り下ろす。猿はそれを受けるべく腕を重ねるも叶わず、頭へと刀がめり込む。
「縺オ縺悶¢繧薙↑!!!!!」
メキメキと嫌な音が猿の頭蓋の中をこだまする。だが、猿もされるがままではいない。かろうじて動く左腕で【剣豪】の右耳を削ぎ落とした。それが精一杯の抵抗であり、間も無く縦真っ二つにされた猿は絶命した。それとほぼ同時に、彼らを取り囲んでいた死体たちも黒いモヤとなって消えた。
「.......猿楽よりは楽しめたぞ」
数時間後、二人の獣狩りが女郎蜘蛛迷宮の入り口から姿を現した。空には黄金色の満月と無数の星が輝いていた。それは彼らの偉業を讃えるかのように煌々と輝いていた。
「あのエテ公、思いっきり蹴り飛ばしやがってよお....肋が何本かイっちまったぜ」
「......生きていることが奇跡だ。あいつ、死ぬ直前まで私たちのことを侮っていた。だから勝てたに過ぎない。」
「それもそうだな。....にしても、お前の耳を削ぐたあ、相手もなかなかやるなあ。治さなくていいのか?」
「....戒めだ。怒りに支配された私への」
「....そうかい」
「ところでよお....今回の話、俺の本に書いていいか?」
「あの胡散臭い本にか?かまわないぞ」
「胡散臭いは余計だよ」
「じゃ、まずは俺が気を失ってからのことをだな..........................」
まだ、セウントと【剣豪】について書くことはありますが一旦「太陽の化身編」は終わりです!
少し今後の展開を練り直すのでしばらく更新空くかもしれないです