第五十話 剣豪伝説Ⅲ ー太陽の化身ー 後編⑤
今回は短めっすね
数時間後、燃え盛る御所の中には多くの雑兵の死骸とその中心に立つ男、そしてそれを殺そうとする死骸の何倍もの数の雑兵がいた。 このような絶望的な状況にあって【剣豪】自身は充足感に満ち溢れていた。自身の鍛え上げた技と肉体のみを使う純粋な殺し合い。【剣豪】が人生を通して恋焦がれていたもの。これまでは彼自身の立場もあり、それを味わうことはできずにいた。皮肉な話ではあるが、この絶望的な状況になって初めて彼は自身の切望していた「念願」を果たしたのだ。先ほどは鬼のような憤怒を宿していたその顔は今は満足と悦びに満たされた笑顔を映し出している。敵兵から見たら、どちらも鬼のように恐ろしいものであることに変わりはないのだが。しかし、そんな彼にも平等に最期の時は訪れる。【剣豪】の剣技によって近づけずにいた雑兵たちは畳を掴むと四方から【剣豪】へ決死の覚悟をもって突撃する。それによって身動きを封じられた【剣豪】はそのまま身体中を切り刻まれ、とうとう地面へと倒れ込む。最期を悟った【剣豪】は口を少し開いて歌を詠んだ。
「五月雨は 露か 涙か ほととぎす わが名をあげよ 雲の上まで」
そして最期に彼の瞳が映したのはおよそ人とは思えない悪魔のような顔をした男が彼の頭部に刀を振り下ろす姿であった。
これが世にいう【剣豪将軍】、足利義輝の最期であった。
記念すべき五十話目ですが、ボリューム少なめになって申し訳ない。
史実とは辞世の句を読むタイミングや最期の瞬間などが少し異なりますがお許しください。