第四十八話 剣豪伝説Ⅲ ー太陽の化身ー 後編③
「俺たちが殺した女郎蜘蛛も誰かの下僕だったってか、気味悪いったらねえな」
「....であれば、すべての黒幕がいるはずだ」
「そういうことになるが、見当たらねえな」
「.......気配もしない」
「まあ、おそらく、この迷宮の主はあの蜘蛛だな。それを俺たちよりも早くここに来た何かが殺して、今回の事件を引き起こした....と」
「......先を越された、か」
「まあ、しゃーないか、帰るぜ 」
「....ああ」
そうして、二人が元来た道を戻ろうと向き直ると、それはいた。
「ッッ!!!」
「なんだありゃ、猿....だよな?」
そこにいたのは体長およそ7m程度の痩せこけた猿であった。目は何日も寝ていないかのように大きく見開かれ血走っている。手足はそれだけで3mはあるだろう。全身の毛はところどころが禿げており、口からのぞく牙は刃物かとみまごうほどに鋭利だ。もし、この場にとある支援術師の青年がいたならばこの怪物を干からびた日本猿みたいだと称しただろう。
「.......いつからいた?」
「わからねえ、ただあいつはやばいz」
刹那。ホワイトの体は宙を舞っていた。猿は一瞬のうちにホワイトとの距離を詰めるとホワイトの体を蹴り飛ばしていたのだ。
「ホワイト!!!!」
「【剣豪】.....こいつ、強え」
そう言うとホワイトは意識を手放した。
「縺雁燕谿コ縺!!!」
次はお前だ、と言わんばかりに【剣豪】.を見るその表情は侮蔑と狂気に満ちた笑顔であった。
「.....来る!」
猿は【剣豪】へと駆け寄ると、飛び上がり【剣豪】の顔面へ回し蹴りを放つ。
「......こいつ、本当に獣か!?」
それを受け流した【剣豪】が反撃をしようと猿へとと向き直ると巨大な火の玉が迫っていた。
「こいつ....魔術まで!!」
それを間一髪で躱した【剣豪】は気づいてしまった。自身の周囲を虚な表情をした魔物や冒険者を取り囲んでいることに。ただし、猿の下僕は剣豪はおろか気絶しているホワイトにすら手を出さずに静止している。猿の顔に目をやるとニヤニヤと笑っているように見えた。
「.....舐められいるということ、か」
【剣豪】は寡黙で気品ある雰囲気から穏やかな人柄であると思われがちだが、その内面には凄まじい誇りと激情を秘めているのだ。【剣豪】は刀を構え直すと猿を睨みつける。剣を立て、体を庇うように体の前に構えた。俗に印の構えとも言われるこの構えは【剣豪】の流派に伝わる構えであり、それは【剣豪】が本気を出した証でもある。
「.......来い」
「縺雁燕谿コ縺!!!!!!!!!!!!」
【剣豪】の声に応えるかのように猿は突進し、拳を繰り出す。
「っっ!!」
猿の拳を刀で受け止めたが、その圧に思わずよろめく。
「なんて力だ.....」
「縺縺縺縺縺縺縺縺縺縺」
【剣豪】は思わず地面に膝をつく、猿はそんな【剣豪】の姿を見て醜く顔を歪ませる。
「.....こいつ、私を見て嘲笑っているのか」