第四十四話 剣豪伝説Ⅲ ー太陽の化身ー 前編
物語が動きます
男はある島国の出身であると言った。男は自身の名を名乗らなかったが、人は彼を剣豪と呼んだ。彼は一振りの刀と東洋由来の衣服に身を包み獣を殺すことを生業としていた。男はこの時23歳、ホワイトという魔術師と組んで仕事をしていた。彼らは後の世にセウントと呼ばれることになる街を拠点にし、「女郎蜘蛛の迷宮」を攻略するべく忙しい日々を送っていた。
ここはそんな街のとある酒場の片隅だ
「なあ、【剣豪】よお。」
「なんだホワイト、これ以上の酒の注文は許さないぞ」
「なんかよお、空......変じゃね?」
「....飲み過ぎではないのか?大体、迷宮を攻略するとお前が言ったから私はここにいるのだぞ。それを、こんな昼間から酒場に入り浸るなんて....」
「おいおい説教は勘弁してくれよ、それに俺はまだ酔っちゃいない。」
「酔っていないというのにそのような戯言を言う様子では終わりだな。なるべく早く医者に診てもらえ。」
「いやいや、【剣豪】マジなんだって!!こっちに来て空見てみろよ〜」
「はあ、付き合ってられないn....っっ!!」
「おい、ホワイト....いつから月は赤くなったんだ?」
「ほんの数分前からだな。なんなら星の一つも見えないな、不気味なことこの上ないな」
「.....異常事態だな。原因はわかるのか?」
「さあな、わからねえよ」
「お前、高名な学者ではなかったのか?」
「勘弁してくれよ、いくら『賢者』なんて言われてもよお、わかんねえものはわかんねえんだよ」
「.....『賢者』と言うよりはただの『酒浸り』だな」
「...ただ、街のはずれの迷宮から嫌な気配がする」
「.....女郎蜘蛛迷宮か、嫌な気配とは?」
「魔力の流れが気持ち悪い」
「魔力の流れとは?」
「...ったく、ホントに剣術以外に興味ないのな。」
「いいか?この世界の空気中は魔力で満ちている。俺たち魔術師はその魔力を呼吸で取り込んで魔術を操る動力源にする。魔力ってのはこの世界を満たす液体みたいなもんで、絶えず循環しているんだ。だから、どこかでその循環のシステムにエラーが生じれば魔術師みたいな魔力に敏感な連中は異変に気づけるってことよ」
「.......言っていることの大半は理解できないが、ただの酒浸りの戯言でないことは理解した」
「....で、どうするんだ?....って聞くまでもないか」
「ああ、どの道いつかはやっていたことだ」
数日後、女郎蜘蛛迷宮の中へと歩みを進める二人の獣狩りの姿が目撃された