第四十話 餌食
「アンジーいるかい?」
コンコン、とノックをするも反応はない。
「アンジー、開けてくれないか?」
「少し話をしよう」
無反応。自分でまいた種とはいえ、ここまで無視されるよ心にくるものがある。..少し強引にいくとしようか。
「アンジー、出てきてくれるまで俺はここを動かないよ」
「............」
「............」
「............」
「............」
ガチャ、と鍵が開く音がした。ただ、出てくる様子も何か言ってくる様子もない。....よし、腹は括った。
「アンジー、入る..よ?」
扉から入って部屋の奥へと進んでいく。すると、ちょうど俺から見て右手に敷布団がある。その上で、布団にくるまっているのがアンジーだろう。
「アンジー、その、謝りたいことがるんだ。」
「.....別に気にしないでください。私、気にしてませんから。」
「もう、大丈夫なので部屋から出て行ってくださいませんか?」
....予想はしていたが、ずいぶん素っ気ないな。....ここで、話を整理しよう。アンジーはあの日...俺たちが初めて体を重ねた日から俺たちは恋人になったと勘違いしていたんだ。....いや、俺が恋人ではない、と勘違いしていたと言った方が正しいだろう。言い訳がましいかもしれないが、アンジーに失礼だと思ったんだ。俺みたいなやつに好かれるなんて。中学に通っていた頃、隣の席に座った女子とよく話していた。趣味が合って、彼女と話す時間は心地よかった。そして、彼女もそう思ってくれていたはずだ。そこで、終わっていればただの女友達だ。しかし、当時の俺は、バカで、ラブコメに熱中していて、そして童貞だった。...いや、まあ、ついこの間まで童貞だったわけだが。とにかく、俺は勘違いして告白した。結果は、まあ、そういうことだ。俺は彼女を驚かせてしまった。いわく、「キモい」だそうだ。後で聞いた話によると、どうやら友達がいない俺を憐れんで友達のふりをしてくれていたらしい。そこからしばらくして、俺はこの世界に俺を好きになってくれる女子なんていないという結論に辿り着いた。...自分語りをしてしまったが、原因が勘違いならそれを正せばいい。単純な話だ。
「アンジー、俺は、今までモテなかったんだ。だから、俺のこと好きになってくれる人なんてこの世にいないと思っていたんだ。だから、アンジーが俺のことそんなに思ってくれていたなんて夢にも思わなくて」
「.....本当に、そうなんですか?」
「ああ、ごめんなアンジー...本当に気づかなかったんだ」
「そこではなくて、『俺のこと好きになってくれる人なんてこの世にいないと思っていた』のところです。」
「?..ああ、そうだよ」
「いますよ!!!覚えていますか?私たちが初めて会った時のこと」
「覚えてるよ、グレイウルフの群れの討伐依頼の時だよね、いくつかのパーティーで合同で参加したやつ。」
「そうです、その時にパーティーのテントから締め出された私に優しくしてくれた時から、ずっっっっっっっっと大好きでした。だから、【主人公】さんが前のパーティーのことで弱っていた時チャンスだと思ってしまったんです。だから、悪いのは私なんです。」
「それは違うよ、君が俺に救われたと言ってくれたように、俺もあの時のアンジーに救われたんだ。本当は、俺あの時のゴブリン討伐の後、パーティーをやめようと思っていたんだ。俺が他のみんなに比べて弱かったのもそうだし、前の仲間のことが忘れられなくて何もする気になれなかったんだ。でも、マヌケな話だけど、次の日の朝とっても清々しい気分になって、なんとか頑張ろうと思えたんだ。だから、まずはお礼を言わせてほしい、ありがとう。そして、俺のことを許して欲しいとはいわないから、謝罪をさせてくれ」
「......わかりました。お願いを一つ聞いてくれたら許してあげます。」
「一つとは言わず、何個でも言ってくれ。アンジーの気が済むならなんでもするよ」
「言質は取りましたからね」
「えっ!?、ちょ、アンジー何して、やめて」
アンジーに強引に唇を奪われた俺は、そのまま彼女の布団に引き摺り込まれた。そうして俺たちは「恋人」になった。
俺が次に自分の意思で動けるようになったのは、夕日が部屋にさしこむのを確認した後だ。
前話で【主人公】くんの一人称間違えてました。正しくは「俺」です。修正しときます。申し訳ない。