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そこそこの中堅冒険者(自認)の俺がパーティーを追放されて真の実力を知り逆襲の旅へ!?〜今度こそは普通の一般市民になろう!!!(強い意志)〜  作者: 酒粕
第四章 南海探究編

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第三百八十九話 スコッチエッグと乱数と羽織 Ⅱ

過去最長かも?

機関車.....という名をした鉄の駕籠に揺られ始めて半日。

【主人公】は頬杖をつき、窓へと頭を預けて眠っている。

リイは頬杖は窓から外の景色を眺めては、何かを思いついたかのように紙束へと筆を走らせ、かと思えば頭を傾ける。


ホワイトはこの中を見物すると言って部屋を出てから一刻半は経つ。


初日の昼食以降の食事は係りの者が用意したものを食堂車という場所で食すか、個別に部屋へ供される仕組みだ。


.........自ら食事を受け取りにゆくなど、かの尊氏公の血を引き、代々将軍として日の本を統治してきた足利の武士の行うことではない.....が、腹が減ったのも事実だ。


それに、私はもう真の意味では将軍ではない。


私が帝から賜った征夷大将軍の地位は

今頃、尾張のうつけ者かその倅の手の中か

......しかし、奴の傍らに控えた猿顔の男の纏う気配もまた奴に匹敵するものだった。

三河の狸も東海の弱小大名で終わるような男には見えなかった。


私の死後も天下は二転三転、四季のように移ろい続けるのだろう。


.....が、死した今となっては天下がどうなろうとも、私の知るところではない。


そのような詮なきことを夢想しながら私は食堂車を目指す。


食堂車では、この世界へと足を踏み入れるまでは嗅いだことない....しかし、今は飽きるほどに嗅いだ油の香りがする。


物腰の低い男が私へと歩み寄り、口を開く


「お客様、ディナーをお召し上がりになりますか?」


「.....うむ」.


「何号車のお客様かお伺いしてもよろしいですか?」


「......三号車の足利義輝だ」


「3号車のお客様ですね!お一人様でよろしいでしょうか?」


「....うむ」


「こちらでお召し上がりになりますか?」


「......うむ」


少々煩わしい。


思えば、かつては私が何も言わずとも小姓が食事を用意していた。


今もまた、ホワイトや【主人公】、リイが私の代わりに注文をする。


そうして私は窓際の二人がけの席へと案内される。

「それではお食事をお持ちしますので少々お待ちください」


「......うむ」


四半刻もしないうちに私の元へ食事が供される。

「本日のメインディッシュは皇帝陛下が所有される牧場にて飼育されている乳牛の乳を用いましたシチューにございます。帝国西部より取り寄せました高級小麦を車載の石窯にて焼き上げましたパンと共にお召し上がりください。そちらの小皿はウォレス領エスポワルにて水揚げされました、サーモンをスモークしたものとレタス他7種の野菜を和えたサラダにございます。そして、こちらの付け合わせは、ゴクラクの温泉を飲んで育った最高級鶏の肉と卵を用いた『スコッチエッグ』にございます。お飲み物はロウサイにございますジョスイの街、その近郊にがございます渓流から汲み上げ、帝国最新鋭の冷却魔術を応用した冷蔵庫にて冷やしたものにございます。食後のデザートは帝都に本店を置く『スイーツサロン』の特製マカロンにございます。食後のお飲み物は......」


『スコッチエッグ』......


その後も続く係の者の冗長な説明を聞き流しながらも、私はあの生意気な魔術師男と初めて食事を共にした夜へと思いを馳せる。














ホワイトと名乗った男は一見して不躾にも思えるような口調で私へと話しかける。

「ただし、俺との会話に付き合え.....食事の間だけでいい」


「........相分かった」

......今手元にある路銀では、新たに食事を購入し直すと言うことは避けたい。そのような足利の血を引くものとは思えぬこと考えた私は、それに応じる。


「無口だねえ、お前さん......ところでよ、日本って知ってるかい?」


日の本....この世に生を受けてから、二十九年間に渡り暮らし、そして死んだ、故郷の景色を思い返し望郷の年へと浸る。

「....ああ」


「ヤマトじゃねえぜ?日本だぞ?」


「.......知っていると言っているだろう」


「へえ......まじかよ......じゃあ、お前さんも俺と同じ異邦人ってことかい?」


「その異邦人という言葉は知らぬが、私がこの妙な世界の住人ではないという意味ならば私は異邦人と言えよう」


「つーか、さっきから古風な喋り方だなお前さん、侍かなんかか?」


古風....か、文化と経済の最先端である京都で暮らしていたと言う私の誇りが逆撫でされていくのを感じる。

「.....そうだ」


「へえ....創作のテンプレだとこの手の転移者は現代人だが、こう言ったケースもあるのか...」


率直な感想を述べるならば妙な男であった。


奇妙な言葉遣いに風貌、そしてだらしのない格好からは想像し得ない知性。


そして、なにより奇妙であったのはその立ち振る舞いだ。


私に臆さぬ者はこれまでも数多見てきたが、それは虚勢か、無知か.....少なくともこの男のように私をただの友人のようにみなして話しかける者は皆無であった。


かつての私であれば無礼であると斬り捨てていただろう。


しかし、そうする気にはならなかった。


「おもしれえ....どの辺出身なんだ??」


「.........山城だ」


「京都ねえ.....歳は?」


「この世界へ来る以前は二十九であったが、今は二十一だ」


「.....は?どういうことだ.....俺をからかってんのか?」


「........なぜかは分からぬが、体が若返った」


「.....根拠は?」


「二十二となった年に左脛に負った傷の跡がない」


「へえ.....おもしれえ!!若返り.....人類の夢じゃねえか!!いつか、俺が確立させてやろうとは思っていたが....こんなところでサンプルに出会えるなんてな!!!」


「..........」


「わりいわりい...つーか、お前さん...名前なんて言うんだ?」


「............足利義輝である」


「お、まじか....!!有名人じゃねえか!!」


「.......私を知っているのか、どこの家中の者だ?」


「あー....俺はなんつうか、お前さんが死んだ五百年後くらいの日本出身でな、武士も公家も将軍もすっかりなくなっちまった世界の出身だ」


「.....!!....そうか.......足利の家や天下がどうなったか、などと聞くのは野暮か」


「別に聞きてえなら、教えてやるがね」


「良い.......いや、一つ良いか?」


「おうよ」


「.......松永はどうなった?」


「松永久秀なら、たしか.....織田信長に負けて自害したはずだ」


「そうか」

松永のような狡猾な男でも天の意志には勝てぬか


「にしても.....本物の侍か....おもしれえ.....」

するとホワイトと名乗った不躾な男は懐から何かを取り出したかと思うとそれを私へと放ってくる。

「......!!!」


私はそれを抜刀し、両断する。


「.........なんのつもりだ」


「そんなキレんなってよお〜.....ただの石ころじゃねえか.......それにしてもやるじゃねえか、凄まじい速度と技術力だ。力学的な視点から見ても一切の無駄がない動きだ。神業ってやつだな.....」


「なぜ斯様なものを投げたのかと聞いているのだ」


「いやさ、後世で『剣豪将軍』なんて呼ばれてるあんたの剣術を一目見たくてよ....悪かったって」


「............良い、許す」

なぜ、この時この男の蛮行を許したのか、今となっても分からない。


「へえ.....思ったより気前がいいじゃねえか!!」


すると、私たち会話に割り込んでくる者がいる。


「おいおい!!スカし剣士!!俺たちのシマで商売してんじゃねえよ!!」

ここ数日、私へ付き纏う土着の獣狩りであった。奴は手下を引き連れ私たちの周りを囲む。


「スカした魔術師野郎もいるじゃねえか!!スカしコンビってか!!!生意気しやがってよ!!」

そう言うや否や、獣狩りどもは腰に差した剣を抜く。

すると、

「研究の邪魔だ。.......大気、凍れ」

ホワイトは獣狩りへと目すらも向けずに魔術を放つ。

獣狩りは一人と残らず、氷の像となる。


「.......よし、話の続きといこうぜ」


「........うむ」

神業か.....この男の扱う術の方が、余程神業ではないか


そうして、私たちは自然に互いの身の上話を語り。


あまつさえ、明くる日、付近の森へ赴き獣を狩ると言う約束さえも結んでしまった。



そうして、夜も更けた頃

「.....っと、悪いなサーモンのフライを渡すのをすっかり忘れてたぜ」


そうして私の皿へと魚料理を盛る。


「.......感謝する」


「へえ.....礼とか言えるタイプなのか、意外だな」


「.......生意気な男だ」


「じゃあ、このスコッチエッグは俺がもらうぜ」


「......好きにしろ」














「.........スコッチエッグ、か」


「......お客様、どうなさいましたか?」

係の者が眉を顰めて私の機嫌を伺う。


「......何でもない」


「スコッチエッグがお気に召さなければ、取り替えることも可能ですが......」


「......構わぬ、むしろ好物だ」


「左様ですか。それではお食事をお楽しみくださいませ」



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