第三百八十二話 おねだり
そうして、翌日の夜。俺たち四人は領主の館へと向かう。
「にしてもよお....恋のキューピッドに探偵かあ....随分面白そうなことしてんじゃねえか」
「ふむ.....暗闇でも自在に動く暗殺者か、ぜひとも死合いたいものだ」
「彼女は強敵でした。.....ホワイト殿の助言がなければ逃していたやもしれません」
「なるほどねえ....こりゃ、あれだ。貸し1だな....これでリイの旦那の部屋で酒が飲める」
「ははは.....」
「甘んじて受け入れましょう...」
「にしても、領主様と対談ねえ.....上手いこと列車への乗車を早められるといいんだがな.....ブルーバードからの返事を待ってたら今から一月はかかっちまうしよ...」
ここで、俺は彼らに謝罪しなければならないことがある。
「そうですね.....でも、その言いにくいんですけど、船の上での件の功績は....」
「聞いてるぜ、お嬢ちゃんの恋の成就のために領主様を引っ叩いた件と相殺されちまったんだろ......合理的じゃねえが....俺は好きだぜ、小僧のそういうとこ。それに面白え話だ.....俺の本に書かせてもらうからな」
「ホワイトさん....!!」
「.....そもそも、【主人公】さんの機転がなければご令嬢を賊ごと逃がしていた可能性もございます。.....あれは、貴方の功績ですよ」
「.......うむ、己の信じる道を往っただけのことよ」
「.....リイさんも義輝さんも....ありがとうございます!!」
そうして、館へと辿り着く。
俺たちは船上での件や、『ドア男』事件解決への尽力を讃えられる。
そのまま、夕食を共にする。夕食の場にはジェームズの他にも彼の妻やゴームズ、そして、セレスとアレスもいた。メニューは鯉の肉を使ったビーフシチューや、パンといった感じの洋食でデザートにはプリンも出た。......ホワイトさんは早速、先ほどのリイへの「貸し」を使ってリイの分のプリンをもらっていた。
そうして、俺たちのこれまでの武勇伝を語ったり、セレスの幼い頃のエピソードだったりエスポワルの悪口だったり、色々な会話が繰り広げられた。
夕食を終え、俺たちは揃ってジェームズの執務室へと移動することとなる。
椅子に座ったジェームズは神妙な面持ちで口を開く。
「それで.....君たちが望んでいる機関車への乗車なんだが......結論から言うとすぐに乗せるというのは難しい」
「......それは、どういうことですかね?」
俺たちを代表してホワイトさんが真意を問う。
「機関車の乗車定員はさほど多くはない。......むこう七ヶ月の乗車は既にに予約で埋まっている。君たちが貴族であったならば、他の客に交渉すると言う手もあるにはあるが.....生憎君たち平民だ。......それで、悪いが...最短の乗車は....七ヶ月と三日後の昼過ぎの発車の便だ。それでよければ....優先して四人分の予約を取ろう。....もちろん料金は結構だ」
そこで口を開くのは義輝さんだ。
「では、徒歩で移動するというのはどうだ?」
「それは辞めたほうがいいだろう。ここと国境の間には巨大な渓谷と山脈がある。徒歩でそこを踏破するとなれば移動だけで最短半年以上かかる上に、危険な獣も多い。たとえ君たちのような強者といえども無事では済まないだろう。機関車であれば、移動自体は三日程度だ。それに命の危険もない。」
「移動期間がそれほど変動しない以上、機関車を待つというのが合理的な手段でしょうな」
「ああ、リイの旦那の言う通りだ。まあ、あれだ......帝国を出る前に、この国を満喫してやろうじゃねえか」
.......七ヶ月。それだけの間旅がストップしてしまうことになる。しかし、ここでうだうだ言ってもしょうがない。
「.....そうですね!!」
そうして、ジェームズが四人分のチケットを手配しようとした時、セレスが声を上げる。
「お、お父様!!!....そういえば、明後日の便に、ルクソン男爵とそのご家族が乗車されると聞きましたわ.....ルクソン男爵はお父様の義兄ですし.....彼らに変わっていただくというのは.....いけませんか?」
セレスはジェームズに懇願するようにそう言う。
「しかし.....いくらルクソンと言えど.....いや、それ以降の便を増やせば間に合うのか....だが......」
なおも迷うジェームズにセレスは追い打ちをかける。
彼女は、椅子に座るジェームズの膝の上へ座るとそのまま彼に抱きつき、目に涙を溜めながら口を開く。
「お願い、パパ.....先生を、私のお友達を助けてあげて」
「だが....しかし、それは....」
なおも煮え切らないジェームズにセレスはとどめの一言を言い放つ
「.........もう、パパってよんであげないから!!!」
そう言って、セレスは可愛らしく頬を膨らませてみせる。
それに相当ショックを受けたであろうジェームスは、頭を抱えに抱えたのち、結論を出す。
「................................................わかった、わかったから.....これ以上パパをいじめないでおくれ、セレス。レベッカ、義兄上へ妹のお前から手紙を書いてくれるか?」
「ありがとう!!パパ!!大好き!!」
そう言って、セレスはジェームズの頬へキスをする。
.......これを無意識でやるんだから、この娘は恐ろしいんだ
横ではアレスが苦笑いをしている。
そうして、俺たちは明後日の便の乗車券を手にすることとなる。
「ええ、わかったわ」
このシーンを描きたいがために毒牙編の構想を練りました。




