第三百七十八話 捻れた鍵
「私の父は、私の誇りだった。料理で街の人々を笑顔にすることを生き甲斐とする優しい人だった。
でも、私の父は優し過ぎたのだ。金のない娼婦や、家すらもない持たない浮浪者にも気前よく食事を恵んだ。
奴らはそんな父を都合の良い金蔓のような存在だと認識し、恥も外聞もなく、金も持たずに食事をたかるようになった
決して裕福ではない定食屋、そんな店がそのようなことを何年も続ければどうなるのか、そんなことは火を見るよりも明らかだ。
私の父の店はみるみるうちに困窮した。ただでさえ、渡航船の客層が貴族に限られている影響で客が来ない秘境の地、うちの抱える借金はみるみるうちに膨らんだ。営業が終われば、借金取りが訪れ、昼間は金を持たない蛆虫どもが店の戸を叩く。
父は日に日にやつれていった、しかし、炊き出しはやめない。
奴らはうちへ代金を一切払わない、代わりにその金で酒を買い、服を新調し、ヘラヘラと笑いながら私の父へ頭を下げる。
なぜ、父のような正直者がバカを見なければならないのか。
なぜ、父のような善人が苦しまなければならないのか。
なぜ、あのようなゴミムシはのうのうと生き、私や父は貧困に喘ぐのか........
だから、私は、このような不平等を是とする神に代わって、
この街を浄化することにした。
そんな風に「裁き」が日常化したある日、嫌な夢を見た。憲兵のような装いをした男.....顔に悪魔のような笑みを貼り付けたその男に殺される夢を見た翌朝、私は「神の代行者」となったのだ。
この神が与えてくださった「贈り物」の力で、暗闇に逃げ込もうとする小賢しい悪人を断罪した。」
そう言うと、彼女は目を見開き、一層大きな声で叫びます。
「だれもしないから、私が代わりに成敗したんだ!!!!憲兵にそれができたか?.....騎士にそれができたか?.....領主はこの不平等を正せたのか!!!!!.......出来るわけがない!!!私でなくてはできなかったんだ!!!」




