第三百六十九話 夜来風雨の聲
朝食を済ませたのち、ベルボーイ殿の元へと向かいます。
憲兵隊の本部は、騒然としており、そこかしこで憲兵の方が駆け回っております。
ここへくるまでも、多くの騎士や憲兵の方が街を巡回しており、一般市民よりも、彼らの方が多くいたほどです。
そうして、ベルボーイ殿へ捜査をお手伝いしたいという伝言を受付の方へ伝え、一度宿へと戻ろうとしたところで、ちょうどベルボーイ殿と鉢合わせます。
「リイじゃないか!!どうした?」
「いえ、先日引き渡しましたソーが『ドア男』ではないとお聞きし、再度捜査をお手伝いしようと馳せ参じた次第です」
「なるほどな.....だが、この街のことはこの街の者で....と言うべきところなんだが、そうも言ってられん....頼めるかい?」
「ええ。微力ですが、お力添えいたします」
「助かるよ、今回の事件についてはどこまで知ってる?」
「死体の様子とソーが犯人ではないということについては聞いております」
「なら話は早い......ここまでの事件についても共有したいからな....食事でもどうだ?ちょうど昼飯時だしな」
「では、そういたしましょう」
そうして私はベルボーイ殿の案内で、食事をする店へと向かいます。
「それで、どちらに?」
「ああ、『観音の鬚』っつうロウサイ料理の店でな、行きつけなんだ。飯もうまいし、看板娘....ラオフェンちゃんも美人だしな」
そうして、私たちがたどり着いたのは以前、【主人公】さんと訪れたあの料理屋でした。
私たちは引き戸を引いて、中へ入ります
「いらっしゃいアル!!ベルボーイさん!!リイさんも一緒アルか!!二人とも友達だったネ、知らなかったヨ!!」
店員の女性がいつもの笑顔で出迎えてくださります。
「なんだ、リイ...お前もこの店知ってたのか」
「ええ、偶然訪れてから、惹かれてしまいまして....」
「見る目あるじゃねえか...ここはアンブレラで一番うまいからな......よし、今日は俺の奢りだから好きに食え!!」
「では....お言葉に甘えまして.....私はこの、エビチリをいただきましょうか」
「じゃあ、俺は酢豚をもらおうか」
「酢豚とエビチリ一丁ヨ!!!!」
「酢豚とエビチリ一丁ォ!!」
店主親子の元気の良い声が響きます。
そうして、私たちは突き出しの胡麻団子を食しながら、事件の概要について話し始めます。
「リイは旅人だからな....この件について詳しくはねえと思うから、じっくり教えてやる」
「感謝いたします」
「ああ.....『ドア男』は2、3年くらい前から娼婦やホームレスみてえな、ガラの悪い連中を中心に狙うサイコキラーだ。その死体は観音開きのドアみてえにパカっと切り裂かれているのが特徴だ。それが異名の由来だな.......暗闇で対象をぶっ殺すのが特徴で....正体どころか痕跡のかけら一つ掴めてねえ....一時期は娼婦に外へ出ないように命令して、ホームレスを全員、ウチで保護したんだが......それをした途端出没しなくなってな....それに娼婦共もそのうち命令を無視してまた商売を始めちまうしよ.....そしたら、また犯行を再開しやがる。という感じで対策という対策もできねえのが現状だ」
「なるほど......ただ、闇雲に殺し回るのではなく....ある程度知恵を働かせていると.....」
ただ欲望のままに暴れ回る、ソーや、かつて戦ったアレンのような者よりも幾分か厄介な敵ですな。
「ああ、街を荒らすゴミムシのくせして.....不愉快極まりねえぜ」
「なるほど....それでは、夜間の執拗な巡視なども無意味ですな....」
「ああ、リイ....そこでお前の力を借りたいんだ」
「....具体的には?」
「ああ、今夜...あんた以外の憲兵と騎士は全員引っ込ませて、奴を油断させる。そんで、リイの超人的な語感で奴を察知し..........狩る」
「なるほど....」
しかし、もし仮に私が『ドア男』を逃してしまった際に、その責任がどこまで及ぶのかが懸念点です。
私がその責任を背負うだけならば許容範囲内ですが、他の仲間まで巻き込むわけにはいきません。
そのような可能性があるならば、お断りせざるを得ない。
「全責任は俺が負う。この件は領主様の承認も得ている。.....頼めるか?」
......素晴らしい方だ。世界の役人が全て彼であれば良い.....そのようなことを夢想してしまうほどには彼の正しさは眩い光を帯びています。
「ええ、お任せください」
「ああ、頼むぞ.....ここだけの話、最初からお前に助力を頼むつもりでいたんだ。......その分、報酬はたんまりだ。領主様がご息女との婚姻以外の願いならばなんでも叶えてくれるらしい」
.........決行は今夜です。聞くところによれば、奴は危険を感じ取らない限り毎晩犯行を行うそうです。
必ずや仕留めて見せましょう。
ブクマ感謝




