第三十五話 鏡の魔術
今回はメルト視点です。
窓から差し込む朝日で目が覚める。目を開けると知らない天井だ。一瞬ギョッとしたあとに旅行に来てたことを思い出す。これまでも何回かパーティの仲間との旅行は経験しているが、「彼」との旅行は初めてだ。彼の名前は【主人公】、つい最近「黄金の矛」に加入した不思議な青年だ。王都の名門で魔術を修めた私でさえも知らない魔術を操り、おしゃべりなようで冒険者になる前のことはほとんど語らないミステリアスな子。つい先日加入したばかりの彼だが、そこが初対面というわけではない。彼の古巣..Bランクの「鉄の掟」は若手パーティの中では群を抜いて強かった。それもあって何度か合同で依頼をこなしたこともある。一年足らずの付き合いではあったが、彼ら三人と【主人公】くんの間には壁があるように見えた。むしろ、【主人公】くんが一方的に壁をつくっているように思えた。だから、彼がパーティを抜けたと聞いた時は妙に納得してしまったことを覚えている。その後、彼はこのパーティに加入した。最初は、正直あまり期待していなかった。支援魔術の中でマストな魔術である攻撃力強化の魔術を習得していないと聞いていたからだ。それでも、彼はまだ若いしアンジーがとても嬉しそうにしていた、そしてなによりゴルドの人を見る目を信じて、賛成の立場をとった。そして、運命の日が訪れた。あのワイバーンとの戦いだ。あの時は私も死を覚悟した。しかし、【主人公】くんの活躍もあって私たちは生き残った。その時の鍵になったのがあの不可思議な魔術だ。敵の魔術や物理攻撃を相手に反射する魔術。あのような魔術が使用された事例は存在しない、理論こそ研究されたことがあったが実現はしていない、まさに秘術。今になって思い出してみると彼の使う防御力強化の魔術は私が知っているものとは異なるモノだった。本来の防御力強化の魔術は対象者に魔力で生成した膜のようなものを被せることで対象を守るという仕組みだが、彼のそれは対象と攻撃との間に壁のようなものを生成していた。もっとよく観察して分析を行わない限り詳しいことはわからないが、「なにか」ある。ただ、私はそれよりも気になっていることがある。それは彼の出自だ。彼の冒険者になってからのことはよく会話の話題に上がるし、彼も特段隠したりというようなことはない。しかし、それ以前の話、彼が生まれてから冒険者になるまでのことを私たちはほとんど知らない。それとなく聞いてみても曖昧に答えられたり、話題を変えられてしまう。彼は見れば見るほど不可思議だ。黒髪黒目で童顔というこの辺りではあまり見ない容姿であることに加え、不可思議な魔術、一切過去を明かさないということ、知れば知るほどわからないことが増えていく。ただ、容姿という観点においてはハンゾーの故郷ではオーソドックスなものだ。しかし、違うのだ。ハンゾーの故郷であるヤマトは治安が良い地域ではない。そこで育ったにしては彼は不用心すぎる。財布はズボンの後ろのポケットに入っているし、護身用に武器を携帯している様子もない。そして、そういった配慮の必要のない上流階級の出身ではないというのは話をしていればわかる。彼とは長い付き合いになるだろうしその中で徐々に真相を解明すればいい、情報の少ない現状でこれ以上の考察は無意味だ...と思考を切り上げて食堂へ向かう。もしかしたら、彼に会えるかも知れない。最後に私はこの魔術を「鏡の魔術」と名付けて考察と分析を続けていくことをここへ記しておく。
今月はあと1〜3回更新できたらと思います。
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