第三百六十七話 雨風、靡く街
日が落ちたアンブレラの街。月光を背後にそこを歩く二つの影。
ホワイトと足利義輝だ。
彼らはとある親子が経営している料理店で食事をした帰り道であった。ホワイトはカニ玉、【剣豪】は油淋鶏を食べ、酒が入っていることもあり、二人は上機嫌だ。
「はあ....シケた街だな、図書館一つねえなんてよ....それに飯屋も夜になった途端、店じまいだなんて....いくらなんでもビビりすぎだろ」
「.....ふむ、それほどまでに件の『ドア男』の残した爪痕が巨大だったということだろう」
「たしかにな。まあ、ソーの死体は昨日、リイの旦那が憲兵に引き渡したし...しばらく辛抱ってとこかね」
「.....そういうことになるだろうな」
「にしても、リイの旦那は珍しく外出か.....」
「ああ.....街の外れに、この世界で名の知れた詩人の墓標があると言って、今朝からそこに出かけているな」
「.....へえ、お前さんが、他人の予定を把握してるなんてな、以前の【剣豪】からじゃあ、想像できねえな」
「..........リイが朝餉の際に言っていたのだ」
「まあ、そういうことにしといてやる.....んで、小僧は貴族様のお宅にお呼ばれってか」
「貴族の娘に求婚されたと言っていたが....それにケリをつけに行くと言っていたな」
「あいつもなんやかんやでモテるねえ....」
そんな彼らの鼻腔にふわりと香るのは、鉄の匂い。
「.....ホワイト」
「.......ああ、鉄臭えな、血か?」
彼らはその匂いの元を辿る。
「おいおい.....この死体、鎖骨から下腹部にかけて扉みてえに切り裂かれてやがる.....惨いことしやがるぜ、それに...この顔....生きたまま捌かれてるな」
しゃがみ込んで、ホワイトが愉快そうに感想を述べる
「まさか....あの男の....」
「.........それはねえな、死斑の様子から見るに、昨日の深夜から、今朝の日の出前にヤラれたってとこかね....それに、角膜も結構濁ってやがる........その時間のソーは全身バラバラで氷漬けだ」
「であれば、我々が捕えたソーと、市井を騒がせる『ドア男』は別人であったというわけか」
「ま、そういうことだわな.....物騒だねえ、まったく」
「......下手人を追うか?」
「いや、この街の憲兵に任せようぜ.....っと、ちょうどいいところに巡視の憲兵様だ。【剣豪】、お前さんは帯刀してるし、先帰ってな」
「.....相分かった」
そうして、
死んだと思われた『ドア男』は蘇った。実際はどうかわからないものの、街の住人の間にはそのようにして噂は伝播する。




