第三百六十三話 VS黒衣の獣狩り
私は剣を構える。対する【主人公】さんは無手だ。....しかし、それは油断ではない。
それが彼の戦い方だ。
船上で見た彼は、数多の海賊を一人で引き受け、まるで紙をちぎるかのように無力化する。
賞金首も、数の暴力も彼にとっては自身の名を上げる舞台装置にすぎないのだろう。
私も、父も、そしてあのソーでさえも、ともすれば、私が今まで出会ってきた強者とは異質な存在。
私は体が震えるのを武者震いのせいにして、彼の出方を伺う。
すると彼が何やら詠唱を始める。
「我が身に宿るは正義の形、砕くは邪悪。我は罰の執行人」
すると彼の体が黒い鎧のようなもので覆われていく。
......何が正義だ、などと悪態であればいくらでもつけるものの私の本能は警鐘を鳴らす。その闘気はまるで、本物の刃のように私の体に突き刺さるかのようだ。
騎士としての経験が叫んでいる。
私ではあの男には勝てない、と。
文字通り格が違う。
しかし、ここで負けるわけにはいかない。
あのような強大な力を持った、下衆がセレス様の身を狙っているのだ。
たとえ命を賭してでも、そのような未来は塞いでみせる。
私は【主人公】さんに斬りかかる。
彼はそれを容易に避け.......ない
それどころか、
「うあっ.....!!!」
なんて声を出しながら、仰け反る。
すると、
「このっ!!」
などと宣いながら、船上で見たそれとは比較にならないような攻撃を仕掛けてくる。
それを受け流し、カウンターを決める。
すると彼は、地面に尻餅をつき。
「降参!!!降参します!!!」
などと言っている。
その姿は、先ほどまでのゲスではなく、あの人の良い顔をしているようであった。