表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

381/385

第三百五十九話 効能

俺は胃に渦巻く不快感を抑えながら、セレスの屋敷へと向かう。

アレスと鉢合わせたら気まずいので、出会わないように祈りながらだ。祈りが通じたのか、俺は難なくセレスの部屋まで通される。

.....今日は出迎えがなかったが、必須というわけではないのだろうか...などと考えながら屋敷の中を進み、彼女の部屋の扉をノックする。

しばらくして

「ど、どうぞ....」

というか細い声がしたので、遠慮なくお邪魔することにする。


そこには、ベッドにパジャマ姿のままで、半身を起こしたセレスがいる。そして、ほんのり酒臭い...

「....どうしたの?」

俺は思わずそんなことを聞いてしまうが、おおかた予想はつく。うちの天才魔術師がよくなる奴だ。

「先生...頭がズキズキして、体が重いんです」

セレスは少し乾いた声でそう話す。

「.....私、なにかの病気なんでしょうか?」

セレスにとっては初めての経験なのだろう、不安そうな声と顔でそんなことを聞いてくる。.....あれだな、パジャマ姿なのも相まって、普段の強気な態度とのギャップがなかなかイイな....っと、違うから!!違うから、落ち着くんだ、アンジー!!


そんな彼女だが、今にも泣きそうと言った様子で少々イタズラ心が湧いてきてしまう。

「これは......ソラリス大陸のエスポワルに生息する毒蛇に噛まれた者の症状によく似てるな......」

俺は真剣そうな顔を作り、そんなことを呟いてみる。

「えっ!!!!......そんな、私..どうなるんですか!!先生!!」


.....恋愛の先生にそんなこと聞くなよなんて思いつつも、それほどまでにこのホラ話を信じ込んでいるのだろうということで、俺はさらにセレスを揶揄ってみる。

「.....三日ほどかけて、頭が巨大なイチゴのように膨らんでいって.......最後には」


「......最後には?」


「バンっ!!!!!!」

俺は精一杯叫んでみる。


「......ひっ!!そんな、私、どうしましょう......きっと、お酒を飲んだバチがあったのよ....アレス....と離れ離れになるなんて嫌!!うっ....グスっ....」

と、絶望して泣き出してしまったのを見てやりすぎたことを自覚する。

「なーんてね.....ただの二日酔いだよ」


「ふつか、よい?」


「ああ、お酒を飲みすぎた次の日に頭が痛くなるんだ。俺もよくなるよ」


「よ、よかった....じゃなくて!先生!!あまりからかわないでください!!もう!!」


「ごめんごめん...それで、どうだった?」


「『どう』とは?」


「昨日の作戦だよ、『セレス様に酒を飲ませたな!!』って、アレスさんに本気で怒られちゃったんだから....バレてはないんでしょ?」


「それが...その......」


「どうしたの?」


「何も覚えていなくて.....」

なるほどね....お酒の飲み過ぎで記憶が飛んじゃったのか。


「なるほど....初めての飲酒で記憶を飛ばしちゃうなんてセレス、なかなかの酒豪だね!!うちの大酒飲みでも五回に一回くらいだよ」


「もう!!そんなこといわないでください!!」


しかし、そういうセレスの顔には影が差している。

「すいません....先生に教えていただいた作戦を無駄にしてしまって...」


「いや、全くの無駄というわけでもないないよ」


「どういうことですか?」

そうして俺は、アレスが話した話をセレスに聞かせる。

「....まあ!!『私はセレス様の幸せにためならば地獄の業火にだって飛び込んで見せます』だなんて....もう、キザなんだから...」

セレスは今度は顔を耳まで真っ赤にして、ニコニコご満悦な様子だ。表情がこうもコロコロ変わるとついつい揶揄いたくなってしまう。アレスもこんな気持ちなんだろうな....

「でも、ごめんなさい.....私のせいで先生にご迷惑をかけてしまって」


「別に、大したことじゃないよ.....でも、彼には酒入りのチョコを贈ったって話したから、今日はアレスさんと会わないほうがいいかもね」


「なぜですか?」


俺はその問いに言い淀んでしまう。

「いや、その....なんていうか、ちょっと、お酒の匂いが強いから...」


「えっ.....!!!」

そう言って、セレスは自分の口を押さえて、顔を羞恥の色に染める。


「まあ、臭い消しにはリンゴが便利から、後で食べるといいよ....あと、二日酔いにはシジミ汁がが効くから...ということで、俺は帰るね」


「わかりました!!先生はなんでもご存知ですね!!」

これまで散々からかわれたというのに、俺のいうことを疑いなく信じるあたりいい子なんだろうなというのが伝わってくる。


「ははは.....知り合いの賢者様の受け売りだよ」


そうして、俺は屋敷を出る。ちょうど、帰り際....リンゴを運ぶ次女とすれ違った。....よっぽど、酒の匂いが気になるらしい。

リンゴが酒の匂いに効くのかは知りませんが、田舎のおばあちゃんが言っていたのでたぶん効きます

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ