第三百五十八話 蛇革のソファ
俺の名はソー....巷じゃ『家具職人』なんて呼ばれてる男さ。
趣味っつうかライフワークは家具や家を作ること.....そして、材料は人間さ。
人体っつうのは素晴らしい素材だ。百年に迫る耐用年数に加え、そのどれもがこの世に二つとないオーダーメイド。一流の作品には一流の素材が必須だからな.....。
そんな一流の俺は全てにこだわる。たとえば....獲物は俺の能力で変身した蛇の毒で一時的に弱らせ、アトリエでじっくり加工する。そうすることで屋外の作業ではどうしても生じちまう手元のブレを防ぎ、死後硬直による素材の劣化を防ぐんだ。
......蛇に変身する。そんな頭のオカシイ能力に目覚めたのは十年以上前の話だ。
妙な悪夢だった....悪魔みてえなツラ、っつうか使徒教の宗教画で見た悪魔そのもののツラをした男が俺を生きたまま椅子へ加工してくっつう夢だった。
そんで目が覚めたら、そこら辺にいるストロベリーヴァイパーになってた。
当時は結構焦ったが、念じればすぐに人へ戻れたし、なにより蛇の姿と人間の姿を自由に行き来できるなんてことに気がついた時は死ぬほど気持ちよかった。
それからは以前からしていた制作がより捗った。
覚醒後、初めての仕事はダイニングテーブルだった。デカいし、インテリアの顔でもあるソレには屈強な素材が必要だった....だから、街の憲兵を何人か攫った。体格が似通ったやつを二人見繕って作り上げた。.....双子だとか、兄弟だとか言ってたような......どっちだったっけな。
ほかにも、年増の娼婦で作ったライトスタンドやブクブク太った商人で作った本棚、舐めた獣狩りで作った傘立てなんてのもある。
.....さて、と
そろそろ夜更けか....んじゃ、まあ....お出かけといきましょうかね。ここの看守どもはザルだねえ....まあ、無理もねえか。四肢を鎖に繋がれた囚人が逃げ出すなんて不可能だからな.....まあ、それはそいつが、人間だったらの話だがね。
んじゃ、今晩はどうしようかね.....あの騎士団長の息子のドアマットか....いや、昼間会った獣人のラグにしようか....いや、まずはドアを作らねえとな...さっき会った小僧の拳なんて、ドアノブにちょうどいいんじゃねえか?....そうだな、まずはドアノブに決めたぜ、なんてたってドアノブはドアの顔だからなあ....