第三百五十七話 一件落着
仮眠をとり、昼前には再度四人全員で食事と方針の確認を行います。
.....ですが、みなさん朝食の進みが悪い。....かくいう私もあまり食べる気にはなれません。
「おいおい.....蛇のフライってなんだよ!シェフを呼べ!!」
我々の皿には、ヘビの姿揚げのようなものが盛られています。
ホワイト殿が厨房へ向かって叫びます。
「まあまあ...ホワイトさん.......」
そう言って【主人公】さんが彼を宥めます。
「..............」
足利殿はこっそりとソレをホワイト殿の皿へと移します。
「おい!!【剣豪】、てめえっ!!」
「........昨晩の働きへの褒美だ」
そうして何事かと、現れた宿の主人にホワイトさんが話しかけます。
「おい....この蛇のフライってのはなんなんだよ!!」
「....こちら、ストロベリーヴァイパーの毒と牙を抜き、衣をつけて揚げたものになります」
奇しくも、我々が昨晩解剖した男が姿を変えたヘビもストロベリーヴァイパー....
「...げっ、聞くんじゃなかった!!...じゃねえよ、肉とかねえのかって話だ!」
しかし、代わりの食事はないとのことで....何も食らわぬわけにはいかず、皆、ヘビへと箸をつけます。
......鶏肉のような淡白な味わいで、昨晩の一件がさえなければ美味だと評していたことでしょう。
そのまま食事を終え、各々別れます。
【主人公】さんは件のご令嬢のお屋敷へ
ホワイト殿は自室で昨晩の成果を整理するとのこと
足利殿は宿の庭先で刀の鍛錬をなさるそうです
私は解凍していただいたソーの死体を担ぎ...憲兵の詰めどころへと向かいます。
そうして、憲兵隊の本部へ辿り着きます。その建物は死刑囚の一人が逃走したためか、蜂の巣を突いたかのように騒然としています。
私は受付の方へベルボーイ殿の呼び出しをお願いすると、ほどなくしてベルボーイ殿が現れます。
「よく来た!リイ!早速で悪いが、お前さんの嗅覚でソーの野郎を探してくれ」
「.....それには及びません」
そう言って私は布で包んでいたソーの遺体をベルボーイ殿へ見せます。
「どういうこと....って!!これ、ソーじゃねえか!!!」
「ええ、まさしく『家具職人』ソーにございます」
「どうした、これ....下半身がヘビみてえじゃねえか!!それに死体もかなり状態が悪いしよ....」
「ええ、昨夜、貴方と別れた後、付近の森でソーを捜索していたのですが....その途中、明け方ごろに接敵いたしまして....どうやら、この男...毒蛇へ姿を変える魔術を扱うようで....私から逃げるべく、毒蛇の姿になろうとした瞬間、思わずこの爪で体を切り裂いてしまいまして....」
昨晩の間に練り上げておいた作り話を彼へと語ります。少々心苦しいですが、真実を語るわけにもいきません。
「.....なるほど、本当は縛り首にしたかったが、しょうがねえか.........よし、今を以てこの件は俺が預かる!!リイは何も気にしなくていいからな」
「ご配慮痛み入ります」
「それにこの顔、相当痛かったらしいな...まあ、被害者の溜飲も下がるってもんだ!!」
それを聞き、ふと、死体の表情へと目をやります。ベルボーイ殿のおっしゃる通り、その顔には凄まじい苦悶が刻み込まれていました。しかし……私の記憶にある、昨夜見た彼の最期の顔は、たしかに驚愕に目を見開いてはいましたが、このような純粋な苦痛に歪んだものではなかったはずです。氷が解ける過程で、死体が歪な形を作っただけなのでしょうか。.......少々、気の毒な目に合わせてしまったのやもしれません。
そうして、私は彼の執務室へと通されます。
「よし!!心の底から、感謝するぜ!!」
「いえ....」
「ああ、もちろん...褒賞の件も忘れちゃいねえ、ただ...ちょっと今領主様が別件で立て込んでるらしくてよ...二、三日待ってくれねえか?」
「ええ、では...何か進展がありましたら私の泊まる宿の方へ」
そうして、私は宿泊する宿の名を伝えます。
「おう!!....ところで、今回だけと言わずに正式に憲兵になるつもりは.....」
「光栄なお話ですが、私には果たさねばならぬ使命がございますので。それに私のような獣人が憲兵となれば皆様にご迷惑をかけてしまいます」
「残念だ.....だが、いつでも歓迎するぜ!文句言う奴は俺が逮捕してやるよ」
「では...もし機会があれば」
「ああ!!」
そうして、私は帰路へとつきます。
その帰りに、先日の中華料理店へと寄ります。
「いらっしゃいヨ!!リイさん!!」
以前のように、快活な娘さんが出迎えてくださいます。
「よくキタよ!!」
店の厨房には店主もいらっしゃるようです
「小籠包を三人前お願いいたします」
小籠包を三人分購入いたします。宿へ残っていらっしゃる足利殿とホワイト殿といただくといたしましょうか。
「わかったヨ....!!」
「おっと...大丈夫ですか?」
注文を受けて、店の奥へ戻ろうとした娘さんがよろめき、私がそれを支えます。
「ありがとネ、ちょっと、この前、足挫いたヨ」
「それは....ご自愛ください」
そうして、買い物を終え宿へと戻ります。
ヘビの揚げ物以外口にしていなかったと言うこともあり、小籠包は大変美味に感じました。
なんで、死体の顔が変わったんでしょうね....実は第三百五十六話時点では生きていたりして笑