第三百五十六話 黙祷
前半はリイ視点
後半は【主人公】視点です
忽然と姿を消した死刑囚.....しかし、痕跡がない以上どうしようもないと言うことで、解散をすることとなりました。
翌日の昼からまたソーの痕跡を追うと言う計画を聞き、一時の仮眠のために宿へと戻ります。
真夜中の筈ですが、私たちが横並びに借りた部屋....その右端にあるホワイト殿の部屋の隣室がやけに騒がしい....空き部屋の筈ですが。.....それに香のかおりで誤魔化されていますが.....これは血の匂い?
通りかかった宿の主人へ話を聞いてみると、先ほど大きな彫像のようなものを抱えてこの部屋を借り三人組がいらっしゃったようで.......何を隠そう、それがホワイト殿達とのこと...
私は宿の主人からお借りした鍵で部屋の扉を開けます。
追加の部屋を借り、死体を部屋へ運び、義輝さんの部屋にあったお香を焚いて血の匂いを誤魔化す。
そうして、宿の主人にもらった要らない布を床に敷いて、ソーの死体を観察する。
「こりゃいいな....ラヴクラフトのヘビ人間みてえだ」
「.......捌くのか?」
「おうよ」
「まじすか....」
そうしてしばらくは死体のスケッチを取るホワイトさんを眺める。
すると、突然部屋の扉が開く。
「.....何奴!!」
「うおっ!!誰だ!!」
「ってリイさんっ!!」
そこには奇妙な死体を見て呆然とするリイの姿があった。
「これは....!!この男は!!ソー!!」
「おいおい....まさか、知り合いかよ」
ホワイトさんが少し気まずそうな顔になる。
......各々が持っている情報に差がありすぎる。
「一旦、情報交換しません?」
そうして、俺がソーと出会い戦ったことや、その後貴重なギフト保有者のサンプルを解析することになった経緯を話し、リイさんはこの街の憲兵に協力してソーの行方を追っていたことなんかを共有する。
「なるほど.....あの警備体制から抜け出した謎に合点がいきました.....ヘビの姿となれば、枷はなんの意味も為さない」
「へえ.....んじゃ、こいつがその『ドア男』の正体ってわけかい」
「確定したわけではございませんが....その可能性が高いでしょう」
「......このような異常者が同じ街に何人も居るなど、有り得ぬだろう」
俺たちは義輝さんのその至極真っ当な指摘に同意する。
すると、リイが俺へ声をかけてくる
「【主人公】さん、お体の具合は問題ございませんか?」
「ええ、もう元気一杯ですよ」
そう言って、俺はわざとらしく力こぶを作ってみる.....こうしてみると、俺もだいぶ筋肉ついたな
「それは良かったです....ですが、用心を」
「はい、気をつけます....」
そうして話題は解剖の話に移る。
「.....なるほど、たしかに我々の肉体もギフトの獲得と共に変質している可能性は十二分にございます」
「ああ、それと....解剖した後の死体なんだが、リイの旦那が憲兵に届けといてくれねえか?」
「承知いたしました」
「んじゃ、今からこいつの死体を掻っ捌いていくわけだが......嫌な奴は出ててもいいぞ」
「........私は構わん」
「私も見届けましょう」
「俺も付き合います」
「よし、んじゃ....セオリー通りに行くか......諸君、検体に黙祷!」
そうして朝日が登り始めるまで、俺たちはホワイトさんの指示に従って働いた。
俺は定期的に部屋のお香を交換し、リイはホワイトさんの書記を務める。義輝さんはホワイトさんの指示に従って死体を切断する巨大なメスとなる。
「........なんもねえじゃねえか!!!」
しかし、結果は芳しくないようだ。
最初の方こそ、サンプルの珍しさに興奮し騒いでいたホワイトさんであったが、生物学的な好奇心が満たされた後、ギフト獲得による変質と思われるような特質は見当たらなかったそうだ。
ホワイトさんは自身の目論見が外れたようで荒れている。
「あーあ.....くそ、おかしいだろ!!下半身はまごうことなきヘビそのもの、だが上半身にはその痕跡すらもねえ....ヘビに変身できる体が普通の人間と変わらねえなんてよ!どうなってやがる!!」
「........残念な話だが、敵を斬れば良いことには変わりあるまい」
「たしかに義輝さんの考え方もあながち間違いじゃないかもしれないですね...」
「ええ、ですが.....裏を返せば、この特異な能力もまたこの世界の人間の範疇を出ない代物ということになります」
「たしかにな....相手も俺らも結局ただの人間ってことだ」
そうして、飛び散った血や肉片を片づけ、死体を再度氷漬けにして全員で休むことにする。
なんかランクインしたらしいです。感謝!!
ブクマも感謝!!!!!!!