第三百五十四話 良い夜
「ひひひ....ストロベリーヴァイパーって知ってるかい?......ここらに生息する毒ヘビで、噛まれたところが苺みてえに膨らんじまうことで有名なやつさ.....肝心の毒は、獲物の体を痺れさせて、何時間もかけて命を奪うっつうなんとも地味なモンだが.....それがいいのさ、俺の家具は生きたまま作るのが醍醐味なのさ......」
舌がうまく回らない、しかし幸か不幸か...頭は冴え渡っている
「あ、くしゅみ...だな」
「今日はいい夜だ.....風が涼しくて、月が綺麗で....今日みたいな日にデートしたら最高だろうなあ...まあ、あれだな....あんたは騎士に知り合いがいるみてえだし....ここでバラしちまうかな」
なんてことを言いながら、ソーは剣を片手に俺へと迫ってくる。
「く、そ....!」
しかし、その時は訪れない。
「痛ッ....!!!」
刹那、奴の四肢が宙を舞う。
「.....斯様な下衆に遅れをとるとは、鍛錬が足りんな」
「よ、してる、さん!!」
俺へ駆け寄るのは義輝さんだ。
しかし、まだ安心するには早い。奴はヘビに変身できる。ヘビには元々四肢がない、このままでは逃してしまう。
「や、つは、へ、びに....!!!」
うまく舌が回らない。
「....チっ!!仲間かよ!!」
義輝さんが振り返ったときには、ソーは既に下半身からヘビに変身しつつある...しかし、義輝さんは動かない。
「よ、して、るさん!!!」
「......問題ない」
「大気、凍れ」
周囲を凄まじい冷気が包み込む。俺は思わず目を閉じる。
そうして、目を開けると
そこには、上半身はヒト、下半身はヘビ...というなんとも珍妙な姿をした氷の彫像が月の下に鎮座していた。
「へえ.....面白えギフトだ、それに....こんなちょうどいいタイミングで保存できるなんて、今日はいい夜だ....月も綺麗だしな」
そうして、いつもの満月が頭上には輝いていた。