第三百五十三話 毒牙
刑務所を立ち去った後、どうしたものかと街を散策しているうちにすっかり遅くなってしまった。
俺は宿への帰路に着く。....そんなとき、街の郊外.....刑務所の方角から悲鳴が聞こえる。....悲鳴というか、なにかに抵抗するような声が一瞬聞こえたのだ.....もう夜も遅いし、そういうプレイの可能性もあるが...ほっとくわけにもいかないということで俺は駆けつける。
そこにいたのは、右腕から首にかけてをヘビに締め付けられた中年の女性であった。
「.....なんだ蛇か」
とはいうものの、毒蛇だったらやばいので割って入ることにする。
「大丈夫ですか!!」
敏捷魔術を詠唱し、懐に仕込んだナイフで蛇の頭を斬りつける。
「痛っ!!」
俺は女性を抱え、ヘビから距離を取る。.....女性は泡を吹いて意識を失っているものの呼吸はある。....驚き過ぎたのか。
俺は女性を地面に下ろすと、周囲の様子を伺う。......蛇は草むらに逃げたのか、姿は見えない。
そうして、俺は周囲の家に女性の介抱を任せるべく視線を外す。
.................おいまて、じゃあさっきの『痛っ!!』ってセリフ誰のだ!!
俺は背後に殺気を感じて、咄嗟に横へ飛ぶ。しかし、間に合わず右手首に鋭い痛みが走る。
腕を見ると、蛇が喰らい付いている。
俺は腕に噛みついたヘビを反射的に振り払う。
「っと....惜しいな、このガキ..その様子を見るに俺の能力に勘付いたか.....悪いが生かしちゃおけねえなあ.....」
そうして、地面に落ちた蛇が風船のように膨らんだかと思えばと人の形へと変形していく。
「お前は.....」
そこにいたのは『家具職人』ソー......
「このババアの骨で窓枠を作る前に、お前の手でドアノブを作ってやるよ」
「あんたこそ.....一生ベッド以外の家具がいらない体にしてやるよ」
俺は短期決戦にすべく、魔術を詠唱する。
「我が身に宿るは黄金の正義、拳は魔を砕く」
「変わった魔術だな.....まあ、お前はもう終わってるよ」
俺はソーの言葉を無視して、殴りかかる。敏捷強化魔術と能力で反射した反作用によって加速した俺の拳はソーの顔面にクリーンヒットし、奴は情けない声を上げて吹っ飛ぶ。
「...ぐあっ!!」
「どうした...ドアノブが欲しいんじゃないのか?」
「いいパンチだ....ますます欲しくなったよ」
「うるせ....!!!」
再度動こうとした時、視界がグラつく。
俺は無意識に見た右手首が赤黒く変色していることに気がつく
「こ、れは....毒!!」
「大・正・解!!!!!」
ソーの顔が醜く歪む。
......このままじゃ、マジでドアノブにされてしまう...!!!
俺は地面へと力無く倒れ伏す。
赤い満月の悪趣味な笑みが俺へと降り注ぐ。
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