第三百五十話 帝国貴族法 第二十三条三項
「.....アレスさん、どうしましたか?」
アレスにはいつものような飄々とした感じはなく、怒っているようにも見える。
それに俺の問いかけにも一切応じない。
「..........」
「あ、あの......どうかしましたか?」
すると、アレスは突然俺の胸ぐらを掴み壁へと叩きつける。
「貴様!!!セレス様に、酒を飲ませたな!!!!!」
えらいブチギレようだ.....キレているということは酔った演技が見破られたわけではないのだろうが.....なるほど、貴族の子供には酒は御法度だったか........そういやそうだったかもな....
「『帝国貴族法 第二十三条三項 飲酒・喫煙を行ったことが発覚した場合には、当該貴族及び、それを監督する立場にある者、その当事者は帝国査問会による調査、処罰が行われる。』.....貴族の法律です。貴様がそれを知っていたか知らなかったなどはどうでもいい.....セレス様に酒を飲ませ、その身を危険に晒したのだ!!!どういうつもりか、説明をいただけますか?」
.......この様子を見るに、セレスのことを心底大切に思っているように見える。
ただ、ここで「酔ったふりでした」なんてバラしたら意味がなくなってしまう....適当に屁理屈こねてごまかすか...
「....俺は貴族ではないので、一つ伺いたいのですが.....この条文の内容こそが絶対なんですか?」
「....ええ、おっしゃる通りです。......お認めになるのなら、私はセレス様の騎士として貴方を斬らなければなりません」
......すごい忠誠心だ。ここは少し揺さぶってみようか.....
「アレスさんもあの船に乗っていたんですよね?.......俺に勝てるんですか?」
「勝てる勝てないの話ではございません。まだ年端もいかぬセレス様に飲酒を唆すような者が、セレス様の夫になるなどあり得ない!私はセレス様の幸せにためならば地獄の業火にだって飛び込んで見せます」
すごい忠誠心だ。......そして、それは自身の命や騎士としての役割に由来するものではないのだろうということもわかる。
まあ、そろそろ引き際か....ここでアレスと殺し合いなんてしたら全てが水の泡だ。
「たしかに、セレス様は酔っていらっしゃいましたが....法には触れていませんよ」
「何を言ってるのですか?」
「......俺はセレス様に酒が少量入ったチョコレートをお贈りしただけです。......条文には飲酒は禁止するとありますが.....食べることは禁止されていないでしょう?」
バカみたいな屁理屈ではあるが、「罪刑法定主義」という考えで厳格な法には厳格な解釈しか存在しないという考え方だ。.......いや、まあ、元役人のリイの受け売りなんだけどもね。
「........なるほど、たしかに酒が入った菓子であれば法的には問題ございません」
「でしょう?......しかし、未成年の方に酒入りの菓子をお贈りするというのは非常識でした。謝ります」
そう言って俺は先手を打って謝罪する。これで相手が駄々を捏ねてくることもない。
「...............こちらこそ、早とちりをして大変なご無礼を」
アレスは不満のありそうな顔をしてはいたものの謝罪をしてくる。
「気にしないでください...では、また」
そう言って俺は屋敷を後にする。
......なんだよ、アレスもセレスのこと結構好きじゃん
レゼ編、見終わってしばらく経ちますが....Twitterのタイムラインに流れてくるレゼの絵を見ては思い出し、メランコリックな気分になるというのをここ数週間繰り返しています。
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