番外編 『千年伝説 別冊』〜貴族法ついて〜
雰囲気を醸し出すために2、3個作ろうかと思ったら作りすぎました
帝国貴族の階級については前項で記した通りだが、彼らも曲がりなりには文化性、社会性を持って生きる生物である以上、その集団独自のルールを持つ。今回はその一部を抜粋して、諸君らに紹介できたらと思う。
帝国貴族法 第一条一項 皇帝の権威
皇帝とは帝国における唯一の支配者であり、帝国に帰属するすべての土地と人民の所有者である。
皇帝は超越者であり、帝国貴族法第一条一項を除いたあらゆる法規の制限を受けない。
皇帝の権威は絶対であり、何人たりとも指図をしてはならない。
ただし、先代皇帝に関してはその限りではない。
女帝は原則として認められず、六十歳を超える者が皇帝として即位することも認められない。
皇帝の権威を損なう可能性のある行いをした者は身分、功績を問わず処罰される。
帝国貴族法 第一条二項 帝国貴族の定義
帝国に所属する貴族とは、帝国において爵位を受けた人物及び、その親族を指す名称であり、帝国貴族としての誇りと節度をもって日常生活を送る義務を負う。
帝国貴族法 第一条三項 騎士の定義
騎士とは帝国に所属する貴族に使える騎士団に所属するものを指す。騎士としての品位を持たなければならず、騎士の処罰及び行動の規定には帝国貴族法を用いる。
帝国貴族法 第一条四項 邦外貴族について
帝国以外の国家に帰属する貴族が帝国内に滞在する場合は、爵位に関わらず公爵と同等の待遇とし、帝国貴族法の制限を受けないものとする。
ただし、重大な不法行為や皇帝への敬意を欠くような振る舞いをした場合に限り、その身柄を丁重に勾留し、当該貴族の属国の判断を仰いだ上で対処する。
ただし、以上の条文は帝国と友好な関係もしくは停戦条約を締結した国家、及び中立国の貴族に対してのみ適用され、戦争中の国家及び帝国の属国の貴族に関しては帝国貴族法によって制限される。
帝国貴族法 第七条一項 成人の儀に関する取り決め
帝国に所属する貴族、及び騎士は満十五歳を以て成人とし、それ以降は貴族または騎士としての職務へ従事することが求められる。
嫡子以外の子弟に関しては必ずしも成人の義を執り行う必要はないが、帝国貴族の品位を保つためにも執り行うことが望ましい。
帝国貴族法 第二十三条三項 飲酒・喫煙に関する取り決め
帝国に所属する貴族、及び騎士は以下の条件に該当する場合において、飲酒・喫煙を行うことを固く禁ずる。
一、満十六歳を迎えていない場合
二、帝国が認可した貴族学校及び騎士学校に所属している場合
三、両親、夫及び正室、嫡子の喪に服している期間に該当する場合
四、婚礼の儀の『一週間前から前日』の期間に該当する場合
以上の期間に、飲酒・喫煙を行ったことが発覚した場合には、当該貴族及び、それを監督する立場にある者、その当事者は帝国査問会による調査、処罰が行われる。
帝国貴族法 第三十二条一項 嫡子の決定について
嫡子とは現当主が持つ、爵位、領地、及び一切の財産を継承する権利を持つ者である。
嫡子はその者が生誕し、満三歳のとなってから一ヶ月以内に帝国貴族省へ申請がなされなければならない。
原則、『正室が最初に生んだ者』、もしくは『当主本人が最初に出産した者』を嫡子と定めなければならない。
ただし、最初に生まれた女子の婿となった十五歳以下の男子、満五歳までに該当家門へ養子として組み込まれた者に限り、嫡子として他の子弟を優越することが認められる。
また、最初に生まれた者が男女の双子の場合は、男子を嫡子とし、同姓の双子の場合はより優れた成績で貴族学校もしくは騎士学校を修了した者とする。
帝国貴族法 第三十二条三項 廃嫡について
嫡子を変更する場合は代替わりの三ヶ月前までに帝国貴族省へ申請し、以下の条件を満たしていることを証明し廃嫡の承認を受けなければならない。
一、本来の嫡子が死亡している、もしくは家督を継承することが困難なほど精神的、身体的な欠陥を抱えている。
二、嫡子となる権利を所有する者の中から、正当な審査を経て選出された者である。
三、満三十五歳以上ではないこと
四、出産経験がないこと
上記の条件を全て満たした上で、帝国貴族省が独自に行う調査を経た場合に限り廃嫡が認められる。
例外措置として、皇族との婚姻において新たに正室となった者が初めて出産した男子がいる場合は既に決定している嫡子との年齢差が五歳以内である場合に限り、廃嫡しなければならない。
加えて、女子の嫡子が婚姻し、その夫が健在である場合にその者へ嫡子を変更する場合においては夫妻及び現当主の合意がある場合に限り、帝国貴族省の承認を得ることなく現在の嫡子を廃嫡することができる。
また、いかなる理由があろうとも男子から女子へと嫡子を変更する行為は認められない。
帝国貴族法 第三十二条四項 女子による爵位及び領地に継承について
原則として、嫡子は『正室が最初に生んだ者』もしくは『当主本人が出産した者』であるため女子による嫡子の継承を認める。性別を理由にした廃嫡は違法であるため、処罰の対象となる。
帝国貴族法 第三十二条六項 家門の断絶について
当主が四十歳を超える家門において、嫡子が決定していない、もしくは嫡子が死亡している場合は帝国貴族省による警告がなされる。
警告後、五カ年以内に現状の改善がなされない場合は、再度警告を行う。
二回目の警告を経ても、帝国貴族省へ嫡子の申請がなされない場合は当該家門の当主を帝都へと召喚し、帝国査問会による取り調べを行う。
査問会を経て、嫡子決定の意思もしくは能力なしと看做された場合は当該家門は解体し、爵位及び領地を没収する。
以後、当該家門の関係者は貴族籍から除外される。この際、当該家門に仕える騎士団に対しても同様の措置を行う。
加えて、嫡子が未定のまま当主が死亡した場合は死亡した当主の親族内で最も年長の男子が当主代行を務めると同時に「第三十二条三項 廃嫡について」の廃嫡後の嫡子を選定する条件に従って嫡子を選定する。これは当主の死亡から一ヶ月以内に行われ、その期間内に嫡子が確定しなかった場合は、家門は断絶となる。
帝国貴族法 第六十五条六項 婚姻について
貴族の子弟の婚姻は原則として『心身ともに健康な貴族籍、もしくは騎士籍の異性』と執り行うものする。
例外として、有力な商人や優れた功績を残した武人、魔術師なども帝国貴族省の承認を受けた場合に限り認められる。
しかし、同姓同士の婚姻に関しては如何なる理由を持っても認められない。
帝国貴族法 第六十五条七項 女性貴族の婚姻について
女性貴族は夫を二人以上設けることを禁止する。再婚は原則として禁止である。
嫡子の決定がなされていないという条件下において、夫が死亡した場合もしくは夫の男性機能に著しく問題がある場合のみ帝国貴族省の承認を経て現夫と離縁し、二年間の独身期間を経て再婚することが可能である。
また、女性貴族は夫以外の男性との肉体関係を禁止する。
帝国貴族法 第六十五条八項 男性貴族の婚姻について
男性貴族の婚姻は家門の存続という目的においてのみ、行われるべき行為である。
貴族として品位ある立ち振る舞いを心がけ、その範疇を逸脱しない場合においては重婚、側室との離縁などは各自の裁量によって行われる。
ただし、正室との離縁については規定の遵守と帝国貴族省への申請が求められる。
一、妻側の出産に関しての能力に問題がある
二、妻の心身のどちらかに重大な欠陥がある
三、妻の生家が貴族籍から除外された、もしくはされる可能性が客観的に見て十分に高い
四、当該貴族が貴族籍から除かれる可能性がある場合
以上の条項のどれか一項を満たし、帝国貴族省からの承認が得られた場合にのみ離縁が成立する。
ただし、嫡子が既に決定している場合はそれを廃嫡にすることは認められない。
帝国貴族法 第六十五条九項 正室の決定について
正室とは、男性貴族及び騎士が最も初めに婚姻した女子を指す。
正室は嫡子出産の義務を持つ。
正室の家門に関わらず、男性貴族及び騎士が最も初めに婚姻した女子を正室とするが、当該貴族が皇族及び公爵家のものと婚姻した場合はその者を正室と定めなければならず、この例外を除き、正室の格下げを行う場合は第六十五条十項の手順・条件に従って帝国貴族省に申請しなければならない。
帝国貴族法 第六十五条十四項 婚礼について
貴族の婚姻の儀式に関しては当該貴族の爵位や身分に関わらず、正室を迎える場合は執り行わなければならない。これは、皇族との婚姻に付随する正室の変更や離縁後の再婚などの場合においても行わなければならない。
ただし、側室の場合や当該貴族が女性の場合はその限りではない。
婚礼は帝国貴族省に婚姻を申請してから三ヶ月以内とし、婚礼開催日の夜に行う初夜の儀を以て、婚姻の成立とする。
また、婚礼においては婚姻する両家の親族は参列が義務付けれられており、皇帝への参列を求める書面を帝国貴族省を通じて送付する必要がある。
帝国貴族法 第百二十一条 叙爵について
優れた功績を挙げた騎士、武人、学者、及び商人等の平民が叙爵し、貴族籍を得る場合がある。叙爵には爵位を与え、恒久的に帝国への尽力を求める場合と一代限りの爵位を与える場合がある。
前者の場合、与えられる爵位は子爵に限定されるが、一代限りの爵位に関しては皇帝位、公爵位を除いた全ての爵位が与えられる可能性がある。
叙爵は皇帝及び、帝国貴族省の承認を受けた場合にのみ実行される。
叙爵の審査期間中、授爵の候補者及びその親族は授爵予定の爵位と同等の権利を有し、帝国貴族法による処罰の対象となる。
叙爵した者は叙爵から五代以内は貴族籍、騎士籍ではない者に家督を譲渡することを禁じられる。
以上から、どこの国でも法律は堅苦しくできているということがわかる。
この本の読者の中に、この内容を役立てることができるような身分のものがいるとは到底考えにくいが、もしもし貴族になるようなことがあれば役に立ててほしい。
ちなみ、『帝国貴族法』は、帝国の安定という大義名分のもと、個人の自由を制約し、厳格なルールによって社会秩序を維持しようとする、極めて完成度の高い統治法典と評価できるが.....近代的な『法の平等』が果たされているとは到底思えない......皇帝陛下万歳!!!!