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第三百四十話 儀礼

俺は道を歩く。

そこかしこで客を必死に呼び込む飲食店が見受けられる。

まあ、あんな殺人事件がおこるようじゃあ、夜間の営業なんてなかなかできないか....


そうして、商人街を抜け、貴族エリアへ到達する。

その中でも一際大きな屋敷、そこがお茶会の会場だ。

守衛の人に招待状を手渡すと、丁重に出迎えられる。こうして、貴族の屋敷へ足を踏み入れるのにもだいぶ慣れてきたが....これまで出会った貴族というのは一癖も二癖もある人たちだった。

そうして俺を出迎えるのは先日とは異なる赤いドレスに身を包んだセレスと護衛騎士のアレスだ。

彼女は、ドレスの両端を掴みお辞儀をする。よく見ると指先は震えているし、耳まで真っ赤だ。かなり緊張しているのだろう。

「ご機嫌よう...【主人公】様、お待ちしておりましたわ」

この前会った時とは違い敬語だ。


「ど、どうも...」

と、普通にお辞儀をしようとして俺は踏みとどまる。俺の脳裏に浮かぶのはかつて、馬車の中でコゼットと交わした会話だ。たしか、俺が貴族の社交界はどんな感じかみたいな質問をした流れだったか

『貴族には貴族の、市井には市井の礼儀作法がございます。貴族と挨拶を交わす際に、市井の方が用いるような挨拶をしてしまうと、不快感を与える可能性があります』

そうして、コゼットは一息つき、自身の右手を左胸に手を当て体を軽く前方へ傾けた。その動作は優雅で美しいものだった。

『こちらが貴族用の挨拶にございます。』

そう言って微笑むコゼットに不覚にもドキリとしてしまったのを覚えている。

......落ち着くんだ、アンジー!!ステイ!!ステイ!!


俺はそれを咄嗟に思い出し、記憶の中のコゼットの真似をする。

「どうも...お招きいただき光栄です。そのドレスも可愛らしいですね」


「まあ!!アレス!!『可愛い』ですって!!良かったわ!!」


「ええ、お嬢様...それでは、そろそろ室内の方へ...」

セレスも喜んでいるし、よかった。今度、もしコゼットに会うようなことがあったらお礼を言わないとな。それにしてもアレスのやつ、いまセレスの言葉をスルーしてたよな.....処世術なのかな



「では、失礼いたしますわ」

そんなことを考えていると、セレスは一人屋敷へと入っていく。俺もそれへ続こうとして、アレスに静止される。

「【主人公】様、少々ここでお待ちいただけますか?」


「は、はい...でもなんでですか?」


「大したことではございません。招待客を出迎えたホストは、一度室内へ戻り、外出用のお化粧から、食事会用のお化粧へとお色直しを行うのです。そして、客はそれが終わり、侍女による出迎えが来るまで扉の前で待つ。....というしきたりがございますので」


「な、なるほど...貴族の方も大変なんですね」

なんか、こう...マナーというものだろうか。日本もまあまあマナーが厳しい国だったが...貴族ともなると大変なんだなという小学生並みの感想を浮かべながら佇む。


「ええ、それにしても、先程のご挨拶お見事です」


「あ、ありがとうございます。貴族の友人に教わったんです、変じゃなかったですか?」


「ええ、型通りの完璧なご挨拶でした」


「よ、よかった...」


「それで【主人公】様....お嬢様の件ですが....」


「わかってますよ、彼女からしても俺みたいな平民と恋仲になるのはまずいでしょうし...」


「実は....先日の件を我が主へ申し伝えたところ...かなり乗り気なご様子で.....」


「え、まじすか?」

まじかよ...アレスの主ってことは、セレスのパパだよな、いや、まじか......

「ち、ちなみになんでですか?」


「どうやら、船上でのご活躍に大層感服されたご様子で、『身分に相応しくないのなら、騎士としての立場を与える』とまで、おっしゃっているようで...さらには、『受け入れないのなら、磔にして民衆の前に晒す』などとおっしゃっているそうで..」


「まじか...」

俺は話の後半に絶句する。これは、早期の脱出も考えなければ....いや、ミアかブルーバードあたりに保護を頼むか...?などと頭を回転させるも


「ご安心を、磔の下りの私の冗談にございます」

そういって微笑むアレス。...この人、結構お茶目だよな....


「ですが、貴方への授爵を考えていらっしゃるの事実です。私の方からも貴方様にその気はないとお伝えしておりますが...【主人公】様も、お嬢様に忖度なさらずにキッパリとした断りの言葉をお願いしたいのです」


「はい、わかりました」


「お待たせいたしました.....」


すると、侍女の人が扉を開けてくれる。


いよいよか....


俺は屋敷へと足を踏み入れる。

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