第三百三十七話 雨天
「はあ...はあ....なんなのよ!!あんた!!!」
しかし、その声は虚しく闇に溶ける。
「.....あんたが噂の『ドア男』ね!!私たちになんの恨みがあるの!!」
ポタポタと赤い雫が垂れる足を引き摺って、女は走る。
それを追いかける黒い影が一つ。
「あ...あんた、なんで!!」
しかし、影はそれを容易く避けてみせる。
「あたしが何をしたっていうの!!ただの娼婦じゃない!!......わかった!!金を取らずにヤらせてあげるか....!!!」
しかし、その先を紡ぐことができない。
いつのまにか、女の首を包み込んだ黒い影が力を込める。
「...かはっ!!こ、れで、も喰らえ!!」
女はその影へ向けて、手に持っていたランプを投げつける。
一瞬、影の顔がランプで照らされる。
「あ、あんた、なん、で....」
「........私は正義の代行者、この街に巣食う穢れを祓うもの」
「ふ、ざ、けんな!!!」
女は足首に隠したナイフを持ち、影の腹目掛けて突き刺そうと試みる。
完璧な暗闇、それはたとえ不健康な娼婦の一撃であってもかわせるはずがない.....
「........不潔だ」
しかし、影はその腕を掴むと関節を外す。
「.....痛っ!!」
そうして、そのままナイフを腕ごと娼婦の体....ちょうど鎖骨の間に突き刺しゆっくりと下へ動かす。
「や、やめて!!」
そんな声も、周囲の野犬の鳴き声も、娼婦の体が開かれていく音も等しく闇が飲み込む。
体の前面が観音開きのように切り開かれ、完全に死体へとなった娼婦を見下して、影は声を発する。
「......私は正義の代行者、私が成敗した」
アンブレラには今宵も赤い雨が降る