番外編 ホワイトの道具箱
そこは名も無き宿場町の安宿の一室。
外は暗闇に包まれ、部屋の中のランプだけがそれに抗うかのように煌々と輝く。
異界からこの地に導かれた魔術師と剣士、彼らは旅の疲れを癒すべく一時の休息をとっていた。
テーブルの上には、メスやピンセット、動物の骨や虫の死骸、薬品や粉末のようなものが詰まった小瓶、あらゆるものが雑多に散らばっている。
そんな机上の惨状に顔を顰めながら、【剣豪】は口を開く。
「おい....ホワイト、先刻から何をしている....その小瓶は何だ?」
【剣豪】の目の先には、なにやら黒い粉末のようなものを瓶へと詰める相棒の姿がある。
「ああ、これはな酸化した鉄粉だ.....この前通ったカハートの街で鉱夫どもに分けてもらったんだ」
「......鉄の粉なぞ何に使う?」
「こっちにあるアルミニウムの粉末と合わせて熱を加えると『テルミット反応』っつう現象が発生してな....高熱を発生させるんだ」
「.......斯様な小細工を使わずとも、お前の魔術を使用すれば良いのではないか?」
「はっ!わかってねえな....俺の魔力は無限じゃねえんだ、この現象を利用すれば、より効率よく魔術を運用できる」
「.....お前がそう言うのならばそうなのだろう」
「ああ、そうさ」
「他の品も...てるみっとはんのう...というものに用いるのか?」
「いや..この油は敵の体勢を崩すためのモンだし...この石炭の粉は粉塵爆発を誘発させるためのもんさ」
「.....そうか」
「にしてもお前が人の持ち物に興味を示すなんざ、珍しいじゃねえか.....風邪でもひいたか?」
「私はお前と違って自己管理を徹底している」
「へいへい...そりゃ失礼いたしやした」
そうして、無言の時間は続く。
しばらくして【剣豪】は刀の稽古へ行くと言い部屋を出る。
そうして、ホワイトは一人呟く。
「.....俺にこれを教えた大学の教授共も、それが異世界で人殺しに使われてるなんて聞いたらどんな顔するかね
...」
そう言うと彼は、ランプの火を消しそれらを革のカバンの中へ丁寧に仕舞い込む。
時系列的にはキャメロン到着前(聖剣迷宮編開始前)くらいの二人旅の時期です。