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第三百三十四話 マスター

俺は宿に荷物を置き、街を散策する。


「はあ....にしても、()()どうしようかな....」


そんな溜息をつきながら到着前日の夜のことを思い出す。

なんとなく一人になりたくて船内のバーで夕食をとっていたときのことだ。

バーは穏やかな空気に満ち、客は俺を入れて三人。カウンターで静かに佇むマスターと、彼の静かな鼻歌だけが店内にこだまする。


そんな沈黙を打ち破る何者かが現れる。

「ねえ....貴方」

俺の目の前に護衛を引き連れて現れたのは、先日の海賊との戦いで俺が助けた少女だ。

歳の頃は13、4歳くらいだろうか....金髪ロングに赤いドレスと、いかにもなお嬢様だ。コゼットのようなお淑やかな感じはしない。どっちかというと、お転婆娘という感じで、若干吊り目なのがアクセントになった結構な美少女だ。


「....俺ですか?」


「ええ、他にいるとでも?」

わざわざなんだろうか....怒らせてしまったのか?特に何もしてないと思うんだけどな.....も、もしかして抱き抱える時に胸とかに触れてしまったとかか?.......アンジー!落ち着いてくれ!!まだ、そうと決まったわけじゃない!!一旦、その剣を置いて、いつもの可愛い顔に戻ってくれ!!!


俺は平静を装って応答する。なるべく礼節を保って。

「はあ....なんでしょうか?」


「貴方、私の許嫁にしてあげる!!」




彼女のとんでもない申し出に脳みそがフリーズする。

「......................................え?」


「き、聞こえなかったかしら?」


「い、いえ...聞こえてはいますが、どういうことですか?」


「先日の貴方達の戦い.....いえ、私を賊の魔の手から救い出した貴方の勇姿に感銘を受けたわ!!」


「それはどうも.....」

俺はぺこりと頭を下げる。


すると、彼女は急に萎らしくなって頬を赤く染めながらモジモジしだす。

「だ、だから....その、えっと.....」

すると、近くに控えていた騎士が代わりに言葉を紡ぐ。

「セレスお嬢様は貴方様に一目惚れをされた、ということにございます」


彼女は耳まで真っ赤にして大声を出す。

「ちょ、ちょっと!!!アレス...!!それは私が言うって言ったじゃない!!」


「ははは.....」


「そ、それで....どうかしら?」

彼女はなおもモジモジしながら俺を見る。


気持ちはとても嬉しいし、日本にいた頃の俺だったら挙動不審になりながら全力でオーケーをするだろう。


ただ、答えは決まっている。


「セレス様.....俺は明日も知れないような流れ者です。それに、命をかけて為さなければならない使命もあります。......お気持ちは大変嬉しいのですが、申し訳ありません」

俺は頭を下げて謝罪する。120°くらいだ。


彼女は唖然としている。......どうやら、かなりショックだったようだ。まあ、こんなに可愛い子がまさか求婚を断られるなんて思わないよな......おい、まて、なんかプルプルしてるぞ。大丈夫か?

「.........う、」


「.........大丈夫でs?」


「うわあああああああん!!!」


「!!」

やばい、泣かせてしまった。


すると、先ほどアレスと呼ばれていた騎士が剣へ手をかける。

「......!!!」

俺も咄嗟に戦闘モードへ移行する。


しかし、アレスは笑いながら、口を開く。

「冗談にございます。.....セレスお嬢様は物語の英雄に強い憧れを持っておられるのです、どうかお気になさらないでくださいませ」


「は、はあ.....」


「ですが、もし...街にしばらく滞在されるご予定ならば、お嬢様とお茶会やお食事だけでもお願いしたく....」


「え、ええ...まあ、しばらくは街にいるので...わかりました」


「ありがとうございます。では、失礼いたします。お嬢様もお別れのご挨拶を」


「うっ.... ぐすっ.....し、失礼いたしますわ」



そうして、少女と騎士達は去っていく。嵐みたいな人たちだったな。

「はあ......」


すると、コトンと俺の座るカウンター席に何かが置かれる。それはウイスキーのような酒が入ったグラスだ。

「お客さん......大変でしたね。こちらは私からのサービスです」


「.....ま、マスター!!」






俺は街並みを見ながら再度溜息をつく。

「はあ......どうしようかな、義輝さんに聞いてみるか?.....いや、『断れば良い』って言われて終わりか....ホワイトさんは論外だ.....やっぱ、リイさんだよな......」


俺はリイが向かった方向に向かって歩き出す。

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