第三百二十五話 You reap what you sow
エスポワルの裏路地、喧騒の裏側。そこをおぼつかない足取りで進む男が一人。
闘技大会第二回戦の直後の裏路地はいつもより輪をかけて、静寂が支配している。
「.....くそっ!!あのガキ...ぶっ殺してやる...」
男は利き腕から血を垂らしながら、地面を這いずるように進む。
息は荒く、スーツは不格好に焼け焦げ、自身の血で汚れている。
「はあ....はあ...くそが....俺は最高にツイてるはずなんだ、あの日、この『不可視の弾丸』に目覚めてから....ずっと....」
そんな彼の影を覆い隠すかのように、もうひとつ影が現れる。
「......ベガさん」
「ポインターじゃねえか!!!やっぱ、今日はツイてるぜ...早いトコ、治癒術師の所まで運んでくれ」
「どうしたんですか?その怪我...組織最強のベガさんともあろう方が....」
「『王冠』の持ち主にやられちまった.... ツイてない日ってのは、とことんツイてねえもんだ。バーガーを食おうとしたら、反対側から具がこぼれちまって、しまいには、ソースで手がベトベトになる.....みてえな感じさ」
「ええ、本当にベガさんはツイていない......ですが、」
直後、ベガの胸を鉄の剣が貫く。
「俺は本当にツイてます」
「はっ!?....ポインター、てめえ.......くそっ!!」
ベガは咄嗟に右手をポインターに向けるも、ひしゃげた腕からは虚しく血が滴るだけだ。
起き上がり、自身の体を貫通する鉄の塊を見て、ベガはため息をつき、タバコに火をつける。
「は、くそ...なんで、てめえこんなことを....」
「恋人が死んだんです」
「..........病死って話だろ?」
「ええ、たしかに病死ですよ....俺の恋人は.....アリナは.....この街の『癌』であるベガさんに殺された」
「はっ、アリナ.....なるほどね...........クソがよ、文字通り死ぬほどツイてねえなあ......はあ、ダックマンの野郎...アリナなんて抱きやがってよお....」
「そういえば、アリナのやつの墓参りをしてくださるとおっしゃってましたよね?」
「ああ、地獄でよろしく言っとくよ」
「あいつもきっと、喜びます」
「はあ.....ツイてないなあ.........」
それから三日後、路地裏に血まみれの遺体があるとして騎士団に通報が入る。
しかし、身元はわからず、生ゴミと共に焼却処分されることとなる。
なんせ、このエスポワルでは、殺人など珍しいことではないのだから。
You reap what you sow:直訳は「まいた種は刈り取らねばならない」であり、自分の行動が結果として自分に返ってくること