第三百二十四話 THE KISS
三日後、港には俺たち四人と、それを見送るミアがいる。
「あの....ミアさん、ありがとうございます!!」
「悪いね...俺たちのせいで、あんなデブと結婚する羽目になっちまってよ」
「あら....あんなの嘘に決まってるじゃない」
「はっ!?」
俺の声がこだまする。
「ですが...いくら貴女と言えど、あの男がそのような真似を許すとは....」
リイが懸念を口にする。
「問題ないわ....私の父が誰かご存知?」
「いや.....知らないですけど」
「この国の王様なの」
ミアはさらっととんでもないことを言い放つ。
「「「「はっ!?」」」」
本日二度目、今度は全員の大声が響く。
「いくらウォレスでも私の父には頭が上がらないの.....それに、明日にでも帝都から迎えが来るわ.....バカな男、私と自分が釣り合ってると本気で思ってるだなんて.......おもしろいわ。でも、それ以外がつまらないからダメ」
「はは....」
少々ウォレスが気の毒だが、自業自得というものだ。
「妖狐め....」
そう義輝さんが呟くのが聞こえる。
すると、乗船を促す汽笛が鳴り響く。
「おっと....小僧、いくぞ」
「ミアさん.....本当にありがとうございま...!!!」
そう言いかけた直後、俺の唇を何かが塞ぐ。
「ふふふ.....私を利用するだけして逃げられるとでも?」
そう言いながら、蠱惑的なな笑みを浮かべるミアを呆然と見つめながら、俺は船へと乗り込む。
「これは....致し方ありませんか」
そう言うリイに連れられて、俺は船へ続く階段を登る。
そうして、階段が外れ、船の錨が海底を離れる。
ミアとエスポワルの街がぐんぐんと小さくなっていく。
だが、ミアの顔が俺の網膜を覆って消えない。
にしても....「歌姫」だなんて言われてはいたが、本物のお姫様だったなんて......
KISS:口付け。英語圏では別れを告げることを意味する「Kiss goodbye」という表現がある。