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第三百二十二話 MIA

三人が宿を出るよりも少し先に俺は、例の手紙を頼りにミアの泊まる宿を探す。

そこは、港の近くに立つ巨大なホテルであり、その最上階のスイートルームにミアは泊まっているそうだ。

ボーイに案内された俺はミアの部屋の扉の前に立つ。


コンコン、と軽くノックをすると

「開いてるわ」

と返事がある。

「失礼します......」


部屋の中にはバスローブ以外は何も身につけてないミアがいた。彼女はベッドに腰掛け、ヤスリを使って爪の手入れをしている。その生足は白磁のように美しく.....違う、違う。ミアは俺の姿を好奇の瞳で見つめ、微笑みかける。

.....アンジー、待ってくれ。その剣でどうする気だ?まって!!対話を!!話し合いを!!



俺は大声をあげてしまう。自分でも声が上擦っているのがわかる。

「.....うわっ!!ちょ、ちょっと!!服着てくださいよ!!!」



「あら....案外ウブなのね」

そう笑みを浮かべながら、俺を見るミア。彼女に手で促されて、ベッドへ腰掛ける。


「ウブとかじゃないでしょ!!」


「でも今、お風呂上がりなの......」


俺は諦めることにして、本題を切り出す

「は、はあ....もうそれでいいです。ところで、わざわざあんな手紙まで渡してどういうつもりなんですか?」


「....貴方、恋愛経験ほとんどないでしょ?」


図星を突かれた俺はまた素っ頓狂な声をあげる。

「....なっ!!」


「普通の男はね.....女と話す時は、本題に入る前に女の胸を見ながらくだらないジョークを言うの....ゆっくりブラジャーを外すみたいにその先を期待して、ね」


しかし、俺は彼女との会話を思い出しながら答える

「は、はあ....でも、そういう無駄話嫌いって言ってましたよね?.....それに、俺は恋人がいますし....」


「ふふ...そういうトコが気に入ったの」


「ど、どうも.....」


「それで...あんなふうに手紙を渡した理由だったかしら?」


「はい......」


「特に意味はないわ」


「.....はっ!?」


「ところで、貴方こそ.....あの手紙を渡してからズイブンと日が経ってるけど、なんで今更?」


「そ、それは....あの、俺たち、闘技大会で優勝したんですけど、領主が特権を渡し渋るかもって話を聞いて...それで、ミアさんが領主からのアプローチをかわし続けてるって聞いて.....」


「なるほどね....それに私を利用しようってつもりなのね.....」


俺はそう指摘されて、なんだかとても申し訳ないような気持ちになり、うまく言葉が紡げない。

「あ、えっと...その」


「本当に変な人ね、普通は嘘でも『貴方と是非ともう一度会いたかったからだ』なんて、歯の浮くようなセリフを言うものよ」


「で、でも.....嘘はあんまりつきたくないっていうか.......」


「.......やっぱり面白いわ、ところで...なんで領主の特権なんてものに固執するの?あの男なら、特権の辞退さえ認めれば、お金くらいならいくらでも支払うと思うのだけれど」


「それは、隣の大陸に渡る船に乗りたくて......」


「へえ...なんで?」


「....うまくは言えないんですけど、恋人に会うためです」


「恋人ねえ.....なんて名前なの?」


「えっと、アンジーです」


「その子、カワイイ?」


「はい!!!」


「.........嫉妬しちゃうほどに青いわね、ねえ....最後に一ついいかしら?」


「は、はいっ!!」


俺の返事を聞いた彼女はベッドの脇に置いてあったナイフを俺の方へ投げる。

「.....そのナイフで貴方の人差し指を切り落として、私に頂戴......それがウォレスを説得する条件よ」


俺は愕然とする。

「....!!!!」


ナイフで指を切り落とすなんて....しかし、ここで日和るわけにはいかない。


アンジーにもう一度会えるならば、指の一つや二つ、惜しくない。


やってやろうじゃないか、指がなんだ。


こっちは一度死んでるんだ、今更ビビることはない。




「ただし、約束は守ってもらいますよ?」


「ええ、約束するわ」


俺はナイフを持つ。


熱病に浮かされた夜のように、頭が火照っていくのがわかる。


まるで、全身に心臓があるかのように体全体が拍動する。


目の前の景色が望遠鏡越しかのように遠く感じる。




俺は覚悟を決め、右手に向かってナイフを振り下ろす。なるべく一撃で落とせるように勢いをつけて。


「ストップ」


そんな声が聞こえたかと思うと、ナイフを握った左手を優しく掴まれる。

「....え!?」


「もういいわ」


「『もういい』って!...ウォレスの説得は!?」


「ニブい人ね.....アンジーちゃんにもそう言われない?」


「...は?」

そうは言いつつも、セウントの旅館、彼女の部屋の布団の上でアンジーが俺を「ニブチンさん」と呼び、頬をつつかれたことを思い出す。

しかし、なおも俺の頭に浮かぶのはクエスチョンマークだ。

「....それが?」


「.......はあ、ウォレスの説得...手伝ってあげるわ」


「ほんとですか!!ありがとうございます」


「面白い人ね.....貴方の無駄話なら、聞いていられるかも」


「はは.....」


そうして、俺はミアを連れて、領主の館へ向かう。

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