第三百十七話 THE SWORD MASTER
闘技場はかつてないほどの熱気に包まれていた。ガヤガヤ、と喧騒に包まれた会場は独特の雰囲気を醸し出していた。会場にいた誰もがそわそわと落ち着かない心臓を必死に抑えている。
唯一人を除いて。
「オーケー....オーケー.....てめえら、気持ちはわかるが、一旦落ち着いてこのイかれた祭りの参加者を紹介させてくれ!!!!!!」
「西側ゲートからお出ましなのは、大会初出場にして決勝戦進出!!!素性は一切不明!!その剣が背負うのは鬼か悪魔か!!ノウキン・バカケンシ!!!!!!」
「「「「「おおおおおおおおお!!!!!!」」」」」
「東側ゲートを見てくれ!!!そこに立つのは、エスポワルの伝説!!完全無敵の不敗神話!!!!アルカイドォォォ!!!」
そこから現れるのは、大剣を担ぎ宝飾品と見間違える程に豪奢な鎧を身に纏ったアルカイドだ。
「「「「「おおおおおおおおお!!!!!!」」」」」
「さあさあ、王者か革命児か.....どっちが勝っても伝説の1ページ!!!」
「両者、武器を構えて睨み合う!!伝説の一戦まで....てめえら準備はいいか!!!!」
「「「「「「3!」」」」」」
「「「「「「2!」」」」」」
「「「「「「1!」」」」」」
「試合開始!!!!!!」
アルカイドの腕には黄金の腕輪が燦然と輝いている。
彼はニヤニヤしながら、【剣豪】へと話しかける
「よお.....スカし野郎、悪いが俺の伝説の礎にn.......ぐあっ!!!」
試合の開始が宣言された瞬間、【剣豪】はアルカイドの視界から消え......次に彼が気がついた時には、【剣豪】の刀が彼の体を完璧に捉えていた。
アルカイドの体が宙に舞って、地面へと打ち付けられる。
「.......ぐっ!!」
「どうした、無敵王者ではなかったのか?」
【剣豪】は挑発的な笑みを浮かべてアルカイドを見下ろす。
「く、くそっ!!」
【剣豪】は立ちあがろうとするアルカイドの足を払って、彼を転ばせる。その隙に【剣豪】は思考を回す。
「(ホワイトの奴....策があると言っていたが、やつの腕に輝く腕輪は八百長の鍵である『王冠』.....成功したと見て良いのか?.....いや、野暮だな。仲間が任せろと言ったのならば、それを信じて突き進むのみ)」
【剣豪】は刀を構えて、アルカイドの出方を伺う。
一方のアルカイドは剣を構えずに、腕輪へ手を触れ詠唱を開始する。
「黄金の腕輪よ、我が身に巨人の膂力を、龍脈より流れる無限の魔力を!!!!」
直後、アルカイドの体が青白い光を放つ.......ことはなかった。
「なっ!?」
アルカイドはその男前な顔を歪めて愕然とする。
「ほう....それが貴様のカラクリか、来ないのならばこちらから行くぞ」
【剣豪】が刀を構えて、アルカイドに斬りかかるろうとしたその瞬間.....
「悪かった!!ノウキン!!お前の勝ちだ!!降参!降参する!!斬らないでくれ!!!」
アルカイドは無様に尻餅をついて、【剣豪】へ命乞いを始める
「.............くだらん」
「......!!!!...あ、マジかよ....じゃなくて、何ということだああああ!!!!王者アルカイド!!!死闘に散る!!新たな王者は!!!!!!ノウキン・バカケンシだああああああ!!!!」
無様に降参するアルカイドに会場は、凄まじい怒声に包まれる。
「このクソ野郎!!!てめえにいくら賭けてると思ってんだ!!!!」
「インチキ野郎!!!俺の金返せ!!!!」
「バーーカ!!!俺の金のために死んでも戦え!!その剣は飾りか!!!!」
「なにが『死闘に散る』だ!!!!調子乗んな!!!!」
などと言った風だ。
客席の周囲に控えていた騎士達がその暴動とも言える騒動を鎮圧すべく動き出す。
その隙に、【剣豪】は係に促されて会場を後にする。