第三百十話 THE BBQ
俺は状況を打破すべく周囲を見回す。
俺の目に止まったのは会場で販売される度数の高い酒がたくさん入ったケースだ。
俺はそれをいくつか掴むとベガへ向けて投擲する。周囲やベガは酒でびちょびちょになる。
「おいおい....もったいねえな!!こんないい酒....そうそう飲めないぜ?」
「黙ってろ......火の精霊よ、我が手に力を、灯火を灯せ!!」
そうして、火属性魔術を詠唱し酒へ引火させる。
「うおっ!!!アッチい!!!BBQみてーだな!!!!」
「くそっ!!消えろっ....このっ」
ベガは自分に引火した炎を消すのに必死だ。
俺は、そのままその場から逃走する。なんとか、倉庫を脱出するも、依然として人影はない。.....まあ、いても役に立たないどころか、むしろ敵の可能性が高いんだが。
途中、幸か不幸かここの警備員である騎士と遭遇する。
「なっ!!貴様!!そこの倉庫で何をしていた!!!!」
「......すいません!!!」
俺は一瞬だけヒーロースーツを纏い、騎士をノックアウトする。
倒れ伏す騎士を見て、俺は名案を思いつく。
「くそっ!!油断したか.....あの坊主、どこ行きやがった......!!、騎士殿.....ご苦労さん」
「.......」
「............なあ、騎士殿....パンケーキは何をつけて食う?」
「............ハチミツだ」
「へえ.....イイ趣味だ」
そうしてベガとすれ違う、その直後.....俺は大きく剣を振りかぶる!!!
「....そんなトコだと思ったぜ!!」
直後、身を捩って俺の奇襲をかわしたベガよって放たれた弾丸が俺の鎧の接合部を的確に貫く。鎧が脱げ、俺の素顔が露わになる。
「くっ....!!!」
「残念だったな.....パンケーキっつうのは組織の暗号でな、マスタードとケチャップで食うのさ」
「なるほど......最悪な趣味だな」
「ったくよお....こんがり焼きやがって.......BBQにはBBQソースがなきゃな......ねえならお前の血で代替しねえとな!!」
「くそっ!!」
俺は踵を返してその場から逃走する。
「逃げんじゃねえよ!ほらほら〜」
ベガは出鱈目な場所へ弾丸を打ちながら俺を追いかける。まるで、ハンティングを楽しむかのように陽気な笑い声と共に。
「なんだこいつ!イカれてる!!」
「おっと外しちまった!!」
弾丸が俺の肩へめり込む。
「.....ぐっ!」
「今度はちゃんと心臓に当ててやるからよ〜」
ベガは俺と付かず離れずの距離を保ちながら疾走する。その顔には息切れなどと言った様子は一切ない。
奴はあんな飄々としながらも、プロのハンターとして俺を追い詰める。
「くそっ!!俺は鹿かなんかかよ!!」
「はっ!!いいねえ〜鹿.....トロフィーにはちょうどいい」
「何がトロフィーだ!ふざけんな!!!」
「なーに言ってんだか.....人生ってのは死ぬまでの暇つぶし.....だろ?」
「話が通じな.....うわっ!!」
俺は何かに躓いて体勢を崩す。
「お....ビール瓶に躓いたか、ツいてねえなあ.......まあ、こんなもんさ...人生なんていうのは....どんだけ輝かしくてもドラマチックでも最後は案外呆気ないもんさ」
「くそ....!!」
転んだ俺の頭目掛けて、ベガによって弾丸が放たれる。
BBQ:炭火や薪などの熱源を使い、肉や野菜、などの食材を屋外で焼いて楽しむ食事のスタイル。