第三百八話 THE HITMAN
「.......は?だ、れ....!!!」
振り向くとそこにいたのは、先日ミアの公演で共に過ごしたあの怖いお兄さんだった。俺の胸では臆病者の石が燦然と輝いている。
俺は警戒心を抑えながら、冷静に応じる。
「は、はあ....かまいませんが」
「イイねえ...サイコーだ」
俺は警戒レベルを引き上げ、男の後へ続く。
「よし....ここらでいいか」
たどり着いたのは案の定、喫茶店などではなく観客席の裏手の通路のようになっている場所。闘技場内の売店の在庫なんかが置いてある場所だ。
「よし、まずは自己紹介だ.....俺の名はベガ、よろしくな【主人公】......俺はブリーダーっつう組織の掃除屋でね....」
「ど、どうも.....」
もう、俺の名前を知っていることに驚かない。ただ、こいつは危ない奴だ。マフィアの掃除屋.....先ほどの司会者の長話、対戦相手の明らかな変化....まるで俺を義輝さんと引き離すような意図的な行動。そして、闘技大会とマフィアの繋がり.......こいつは俺たちの敵だ。
俺は目を見開き奴を凝視する。
「おっと...怖いな、別に殺そうたってつもりじゃねえよ....ただ、お前さんが持ってる『小箱』を渡してくれりゃあいいんだ....なあ?」
「............」
嘘だ。なら、義輝さんを遠ざける必要はないし、俺を人の目から遠ざける理由もない。俺は殺される.....つもりはないが、この男は信用できない。
「まあ、いいか.......坊主、大通りにある海鮮の串焼き...食ったことあるかい?」
「......ええ、ありますよ。ついさっきね....」
「うめえだろ?」
「ええ」
「あそこの串焼きな、街の高級レストランに卸されるはずの食品が使われてるんだ」
「横流し....ですか?」
「ああ、正解さ。ノウミソ詰まってんねえ...」
「そりゃどうも」
なんだ?この会話は.....何かの能力?いや違う.....ただの雑談か?しかし、警戒は緩めない。
「俺は思うんだ....もったいねえってな」
「は?」
「だろ?.....街角の串焼き....ガキの小遣いでも買えるモンだ。そんな店に高級食材だあ?無駄すぎんだろ.....全てのものはあるべき場所に....それが俺の美学だ」
「人を殺してでも取り戻したいその『小箱』......一体なんなんだ?」
瞬間ベガは激昂する。
「俺が話してる時に、関係ねえ話をすんじゃねえ!!!」
.....陽気に、鷹揚に見えても、コレがこの男の本性、か
HITMAN:ヒットマン、殺し屋