第三百五話 THE TROPHY
俺たちは医務室へと入る。そのベッドに横たわっているのはマリナーラだ。気配から察するに意識を取り戻しているようだ。
「あの...ひとつ聞きたいことがあるんですが.....」
しかし、俺がそう言うも狸寝入りを決め込んで無視する。
すると義輝さんがドスを効かせた声で言い放つ。
「起きて私たちの問いへ答えろ.....さもなくば、手足を切り落とす」
その言葉を言い終わるかどうかのタイミングで、マリナーラは飛び起きる。
「っっっと、勘弁してくれよ!なんだ!なにをききたいんだ?」
「単刀直入に伺います。この大会の八百長についてご存知ですか?」
それを聞いたマリナーラは顔を真っ青にして高速で弁解を始める。
「あ、あんたら...怪しいと思ったらウォレスの回しモンか!!!か、勘弁してくれよ〜......た、たしかに俺も八百長を計画したがよ......あんたらの計画を邪魔するつもりなんてねえんだ!!アルカイドとの試合ではきっちり負けるつもりだったし......そもそもあんたらだって.....八百長をしてるんだ、俺にも権利くらいあるだろ!!!」
そこまで聞いて理解する。ああ、こいつは関係ないな、と
「いえ、俺たちはただの優勝を目指す流れ者です。まあ、信じるかどうかはあなたに委ねますが.....ただ、この件を他の人間に喋ろうものなら.......俺の友人はかなり怒りっぽいんです、わかりますよね?」
「わ、わかった....そこの剣士も試合前のことは謝る。手足を切り落とすのは勘弁してくれ!!!」
「.......判れば良い」
そうして、俺たちは闘技場を後にする。
「......明日と明後日は休日か、どうする?」
「調査はお二人に任せて俺たちは宿で休息しましょう。今後戦う対戦相手がギフト持ちではないと限りませんし」
「わかった」
そうして、俺の足は宿の方向ではなく港方面へ向かう。
「【主人公】.....何処へ行く?」
「夕飯に行きましょう!義輝さんの勝利を祝して盛大に!」
「......そうか、何を食うのだ?」
「港の灯台に美味しいロブスターを出す店があるそうなんです!!」
「ほう....ロブスターとは?」
「大きなエビです!カニみたいに食べ応えがあるんですよ!」
「...気に入った」
「よかったです!!」
そうして、俺たちは灯台に併設されたレストランへと入る。
「予約した【主人公】です」
「お待ちしておりました.....【主人公】様、お連れの方もよくぞいらっしゃいました」
そうして、海の見える綺麗な席に座り、ロブスターの到着を待つ。
「見るからに高級店であるな.....貴様、財布の中身は問題ないのか?」
と言いながら、義輝さんは懐に入った財布の中身をそっと確かめる。その将軍然としない庶民的な姿に笑いそうになるのを堪える。
「大丈夫ですよ....ていうか、義輝さんもそう言うこと気にするんですね!」
「......私とて、金がなければ食事を摂れないと言うことは知っている」
「そりゃそうですよね!!」
すると、珍しく義輝さんの方から話しかけてくる。
「【主人公】、貴様はなぜこのような過酷な旅をしてまで元いた時代へ帰ろうとするのだ?」
俺はその意外な質問に面くらいながらも答える
「え、えっと......そこで俺の恋人が待っているからです」
「恋人....それは婚姻を結んでいるのか?」
「ち、ちがいます、まだそう言う感じではないです」
「では、子がいるのか?」
「こ、子供なんて!!!もってのほかですよ!!!!」
などとは答えながらも、俺は彼女と子供に囲まれた生活を妄想し、鼻の下が伸びたことに気づく。
「ではなぜ、それほどまでに大切に想う?.....私にはお前やホワイトの言う恋仲というものはわからん。私にとって恋人とは子を産む妻であり、それ以上のものではない、故に教えて欲しいのだ」
俺はアンジーの顔を思い浮かべる。そうして、これまでの辛い旅を思い出す。....うん、やっぱりそうだ。
「そ、それは......彼女となら、アンジーとならどんなに辛いことも乗り越えられる。アンジーのためならどんな苦痛だって目じゃない....そう思ったからです」
「.......そうか、そのおなごのためならば死んでも良いということか?」
「はい!!!」
「そうか....それが【主人公】、貴様の武士道か」
そんな会話をしているとロブスターが席へ届く。
「うわっ!!すごいでかいですね....コレ」
「......うむ、越前の朝倉が寄越したカニを彷彿とさせる」
「じゃあ....」
「うむ....」
そうして俺たちはナイフとフォークでロブスターを食べ始める。義輝さんは俺がロブスターを食べるとき姿をしばし観察したのち食べ始める。
「........美味だ」
「よかったです!!」
ロブスターはガーリックで味付けされ、共に提供された白ワインのフルーティな甘味と最高にマッチしていた。
そうして、食事を終えた俺たちは席を立ち会計へと向かう。
「ごちそうさまでした......会計はコレで」
そういって俺は二人分の代金を支払う。
それを見た義輝さんが口を開く。
「待て、【主人公】.....私が食らった分は私が支払う」
「気にしないでください....金ならありますから!」
「そうではないだろう」
「コレは俺から、義輝さんへのトロフィーですよ」
「......トロフィー?」
「はい、義輝さんは俺たちみんなのために大会で戦ってくれるわけですから.....それなのに義輝さん個人に優勝賞品がないなんてあんまりじゃないですか....だから、これは俺から義輝さんへの優勝賞品です!!」
「......船に乗ることは私自身の望みでもある、という言葉は野暮か」
「ここは俺に任せてください!!」
そうして、一悶着あったものの俺たちは帰路につく。
帰りに義輝さんが大会が終わったら、今度は四人で来ようといっていたのが印象的だった。
TROPHY:優勝杯