第三百二話 THE MOMENT
会場内に静寂が充満する。
しかし、その直後今日一番の歓声が響き渡る。かくいう俺もその歓声の一部だ。
「「「「「わああああああああああああああああ!!!」」」」」
司会者も大袈裟な身振り手振りでそれを煽り立てる。
「な、な、なんてことだあああ!!ピッツの王者が一撃でノックダウンンンンン!!!!勝者は、飛び入り参加のノウキン・バカケンシだああああああああ!!!」
「.....くだらん」
そう義輝さんの口が動いたように見えた。
そうして、大歓声に見送られ会場を後にする。
そうして控え室。
「さすがです!!義輝さん!!!」
「斯様な余興を制するなど造作もないことだ」
「さすが冷静ですね....俺なんて周りと一緒にめっちゃ歓声上げちゃいましたよ」
「まさに、祭りであるな」
「ええ、すごい盛りあがりようでしたね」
「して、八百長の動きなどはあったか?」
「いえ、義輝さんが入場したから退場するまでになにか細工があった様子はありませんでした。....あとは、対戦相手に話を聞いて裏をとりましょう」
「相分かった」
そうして、俺たちはマリナーラのいる医務室へと向かう。
いまだに先ほどの戦いの熱気が残る観客席、そこにいるのはその場に似つかわしくない格好をした男、ベガであった。彼はミアのライブで使用しようと思っていたオペラスコープを懐にしまいながら、椅子の肘掛けにおいたチキンに手を伸ばす。
「これが、レッドホットペッパーのチキンか.......少し刺激が弱い気もするが、ファンキーチキンよりは美味えな....」
「それにしても.......ノウキンとかいうあの剣士、強いどころの騒ぎじゃねえな。あいつが『王冠』を持った【主人公】とかいう野郎と一緒にいるらしいが.......こりゃ、骨が折れそうだ」
「まあ、祭りはまだまだ続くんだ......気長に行こうぜ、狩りっつうのは時間をかけてじっくり行うもんだ」
そう言うと、ベガは指についたチキンの油を舐め取り会場へと溶け込んでいく。
まるで、熱気が生み出した蜃気楼かのように......
MOMENT:一瞬、瞬間
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