第三百一話 THE BULLY
義輝さんとマリナーラは闘技場の中心で互いに向き合う。
「バカみてえな名前じゃねえか!!その名前に見合うようにとびっきり無様にぶっ殺してやるよ!!!!」
義輝さんは眉一つ動かさず応じる。
「.........弱い犬ほどよく吠えるというが、お前は余程弱いと見た」
「その威勢....どこまで持つかな?」
「.............命尽きるまで」
そうして、二人は再度距離を取り、互いに獲物を構える。
マリナーラは前情報通り、剣と円形の盾だ。
それに対して義輝さんは敵だけでなく周囲の人間すらも切り裂いてしまいそうなほど重厚な殺意を滲ませた一振りの刀。
そうして、司会者が声を張りあげる。
「それではああああああ、一回戦第一試合.....開始いいいい!!!!!」
俺はいつも通り獲物を構える。そう、いつも通りだ。ピッツの闘技場で何千回と繰り返した茶番。マルゲリーノが死んだおかげで、もう二度と戻ることはないが.....今はほんの少しだけ感謝している。俺の八百長をめちゃくちゃにしたあのスカし野郎を切り刻めるからだ。
俺は街のチンピラ共とある契約をしていた。それは第二試合であたる俺の対戦相手をそいつらがリンチして賭けで大儲けしようっつう話だ。もともとは俺の雇い主がやろうとしていたことではあるが。それがそのまま俺にスライドしたっつう話だ。この闘技大会の賭けは基本的に大会が進むほど動く金もデカくなる。第二回戦ともなれば、第一回戦の5〜6倍だ。決勝戦はこの街のボスやマフィア連中の飼い犬であるアルカイドとかいう男が関わっている以上手出しはできねえが、第一回戦じゃあ、リスクの割には儲けが小さい。だからこそ、なんの苦労もなく二回戦に参加できるなんて幸運だ......そう思ってたんだが、開会式の直後に飛び入り参加しやがったあの野郎のせいで俺の目論見が頓挫しちまう可能性がある...........いや、ちがうな。俺はピッツ闘技場の不敗伝説、マリナーラ様だ。あんなよくわかんねえ流れ者に負ける道理なんざねえ!!!
そうして、司会の野郎の声で試合開始が宣言された。
俺は身を落として奴の動きを伺う。奴は刀を鞘へしまったまま、俺を睨みつける。俺はその瞳に射抜かれて、びびり上がる心を押さえ込みながら奴へ突進する。
刹那....とでもいうべきだろうか、突進すべく推しを踏み出す直前、俺が瞬きをした一瞬のうちに俺の両足から急に力が抜ける。
「.....このっ!!!」
腱を切られた。そう直感した俺は接近してきているであろう奴の体を両断すべく剣を振り抜く....つもりだった。
直後、俺は首への衝撃と共に意識を失った。
BULLY:弱いものいじめ




