第二百九十九話 THE FIREWORK
第一回戦の開幕を告げる花火が上がる。
この日も二人は戻らなかったので、俺と義輝さんの二人で会場へと向かう。
事前に配布された大会の日程によれば、第一回戦は二日に分けて行われていくそうだ。
まず一日目には、八百長チャンプであるアルカイドの試合はなく、義輝さん含め四人が戦う。
対戦相手は、マリナーラという男で、とある街の富豪のお抱えの奴隷剣士だそうだ。
外部出身ということで、詳しい情報は聞き込みで得ることはできなかったが、運が良いことに闘技場までの道で利用した辻馬車の御者がその富豪と奴隷剣士の住む街の出身であった。
馬車の中、義輝さんは静かに目を瞑って瞑想をしている。そな彼を尻目に、俺と御者は会話をかわす。
「へえ....お客さんたちも闘技大会にねえ......」
「ええ....、と言っても出るのは彼だけですけどね」
「たしかに、そっちのヤマト人の剣士殿に比べてそっちのあんたはヒョロイもんなあ...」
「ええ、ほんとに頼りっぱなしで申し訳ないです。それで、そのマリナーラという剣士について何かご存知なことはありませんか?」
「ああ、俺は奴らとは同郷だからな、ただなあ.....同郷のやつの情報を他人に、しかも、その対戦相手に売るなんてねえ......なあ?」
そう言う御者の瞳が仲間への義理などと言ったものを写しているわけではないということは流石の俺でもわかる。
「そこのところをなんとかお願いしたいんです....もちろんチップの方も弾ませていただきますので」
「.....わかってんじゃねえか、俺も嫁さんとガキどもを食わせてやんなきゃいけないもんでね」
「その気持ち、よくわかります」
「お客さんも苦労してんだね、っと...マリナーラの野郎の話だったかな....あいつはここから北の方にある街の武器商人に囲われた奴隷剣士でね、この街とは別の闘技場で戦う花形だ。盾と剣を使った戦闘が得意な屈強な男で、たしか...元々貴族の下っぱ騎士かなんかで護衛剣術が少し使えるらしい....そんくらいかね....。ああ、あとはそういや、あいつの雇い主で武器商人のマルゲリーノが、この前そこの娼館でぶっ殺されちまったらしくてね.....やっと自由の身になれたってここ数日は酒屋と娼館に入り浸ってたらしいぜ....まあ、そんなとこかね...ご満足かい?」
「はい、ありがとうございます」
「にしても、お客さんたち....こんな熱心に情報収集するなんて...まさか本気で優勝するつもりなのかい?」
「ええ、そのつもりです」
「悪いことは言わねえが....なあ?お客さんたちだって知ってんだろ?」
「ええ、優勝します。たとえ悪魔が出てきても俺たちの仲間を殺せませんよ」
「ははは、言うじゃねえか!!!良いねえ....んじゃ、お客さんからもらったチップはその剣士殿に賭けちまおうかね」
「きっと貯金までかければ良かったと後悔しますよ」
そうして、馬車は闘技場の前へと到着する。そうして、代金とチップを渡し下車する。
「.....っと、到着だ、俺の金のためにも優勝してくれよ!」
「はい、ありがとうございます!!」
馬車を降りたところで、義輝さんが口を開く。
「......同郷の仲間を金で売るとは」
俺は彼の誇りを傷つけてしまったかと思い謝罪する。思えば、敵の情報を金を払ってまで調べるなど義輝さんの実力を疑っているととられても言い訳できない。無論そういうつもりではないのだが....
「すいません、出過ぎたことを」
「『敵を知り己を知れば百戦危うからず』、見事だ、【主人公】.....あとは私に任せておけ」
「.......はい!!!」
そうして、俺たちは選手控え室へと入る。
大会日程
一日目
午前:一回戦第一試合(義輝vsマリナーラ)
午後:一回戦第二試合
二日目
日程なし
三日目
午前:一回戦第三試合
午後:一回戦第四試合(アルカイドvs???)
四日目
朝:二回戦第一試合
昼:二回戦第二試合
五日目
昼:決勝戦
夜:表彰式
FIREWORK:花火
今更ですが、『第百二十二話 今』を加筆しました。