第二百九十八話 THE DUCK
「はぁ...はぁ、はぁ」
なんでこんなことになっちまったんだ。
俺はエスポワルの裏路地を走る。
昨日までは良かった。組織からブツを盗み出し、その祝いで娼館で娼婦を抱いたまでは良かったんだ。いや、今朝ファンキーチキンで飯を食ったまでは良かった。
くそったれラクーンの野郎の手引きで隣の大陸へ渡る船へ忍び込み、トンズラこくはずだったって言うのに......あのチビ野郎....俺を裏切りやがって。
くそっ!
組織の追っ手から逃れて、ガムシャラに街を走る。
そうして、俺は裏路地へと駆け込む。
そこで、一息ついた俺は懐にあるはずのものがないということに気がつく。
「あー....くそっ!『王冠』どこいったんだ!!......くそっ!、あの時、落としたのか!!」
先ほど。闘技場近くのチキン屋で食事の途中、連中に襲撃され逃げていた時、黒髪のガキにぶつかったあの時落としたに違いない。
「クソッタレ......いや、でも例のブツがないとわかりゃあ....もしかしたら........」
しかし、俺のそんな希望は打ち砕かれる。
「よお...アヒル野郎」
いつの間にか俺の進路上に立ちはだかるのは組織最強のヒットマンである。ベガだ。
「ベガじゃねえか.....くそがよ」
俺は逃亡は不可能と判断し、腰の剣へ手をかけベガへと切り掛かる。俺とて、この腕一本で組織の幹部に成り上がった男だ。
「......ダックマン、往生際がワリぃなあ」
「くたばれベガぁあああ!!」
しかし、俺がベガを間合いに収めるよりも先に何かが俺の体を貫く。
「ぐっ.....!!」
「ダックマン.....勘違いすんなよ?これは殺し合いじゃねえ....狩りだぜ?」
俺は剣を構え、ベガのやつを見据える。
奴の魔術は組織でも誰も知らねえ秘密だが、飛び道具のようなものだと言うことは知っている。
それを弾き飛ばして、あいつの体を切り刻む。......そのあとは、ベガが『王冠』を持ち逃げしたことにして、別の街に逃げる。.....その前に、ラクーンの野郎にも礼をしねえとな.....
「何を考えてんのか知らねえが......無駄な足掻きはよせよ、ダックマン........エレガントじゃねえ」
「黙ってな、犬っころ」
直後、轟音が響く。俺は飛んでくるはずの攻撃を見極めるべく目を凝らすも......何も見えない。
「なっ!?」
そうして、俺の腹と右脚から鮮血が流れる。
「ああ、俺の弾丸を弾き落とそうって魂胆だったのか.....残念だ。見えねえもんは打ち落とせねえもんなあ....ツイてねえんだよ、お前は」
くそがよ.....。そうして、俺はその場へへたり込む。
こんなところで死んでたまるかよ........
俺は奴の出方を伺う。ベガのやつはガラス玉みてえな目で、俺を見下ろす。
そして、口を開く。
しかし、突然、奴は妙なことを言い出す。
「ところでよ、ダックマン......船着場の近くにある『レッドホットペッパーズ』のフライドチキン....食べたことあるかい?」
DUCK:カモ、アヒル