第二百九十六話 THE KETCHUP
ベガは部屋へ辿り着くと、指先から何かを高速で射出して鍵を壊し、中へ侵入する。
中では、全裸になった初老の男と下着姿のアリナが呆然としていた。
ベガはその光景をなんとも思わずに口を開く。
「よお、アリナ.....ちょっと聞きてえんだが」
「ベガさん.....」
アリナは顔を真っ青にして、その場へたり込む。
すると、正気を取り戻した初老の男がベガへ掴みかかる。
「なんだ貴様は!!」
「お客様!!やめて!!」
乾いた破裂音が鳴ると同時に男が地面に倒れ込む。
「うがああああ」
「足を狙ってやった....言うこと聞けばこの後ちゃんとお楽しみができるぜ」
「わかった...私が悪かった......」
「ああ、それでいい.....おまえ、旅行者だな?」
「あ、ああ....」
「肌が白いし、腹も豚みてえだ.....北方か?」
「そ、そうだ.....」
「ずいぶんイイ身なりだ....商人かい?」
「その通りだ!!私は武器商人で顔も効くんだ!!!貴様のようなチンピラ.....」
二度目の轟音が響く、男は肩を抑えながらうずくまる。
「ルール1....俺の聞いてねえことを喋んな、オーケー?」
「ぐ...わ、かった」
「イイ子だ....てことは金持ちってわけね.....ところで、ピザは好きかい?」
「あ、ああ....よく食べる」
「一つ聞きてえんだが.....ピザ生地は厚焼きとクリスピー、どっちを食う?」
「あ、厚焼きだ」
男は顔面蒼白といった様子でそれに応える
「なぜ?」
「た、たくさん食いたいからだ.....」
「いいね、そういうハングリー精神のおかげで南方の国で女買えるような財力を身につけたっつうワケかい?」
「あ、ああ...そうだ」
「だが....残念だな、俺はクリスピー派なんだ」
「は、...え?」
そうして、三度目の轟音。
「マルゲリータのピザみてえだな」
そうして、ベガはアリナへ向き直る。アリナは男の倒れる入り口から離れ、窓の近くで怯えている。
「べ、ベガさん.....いったいなにをお聞きになりたいんですか?」
アリナは体を震わせ、悲鳴を上げるのを必死に堪えながらそう質問する。
「ああ、そうそう....アリナ、一昨日ダックマンと寝たっつうのはマジか?」
「は、はい」
「そりゃ話が早くてイイ.....そんとき、あいつはどうだった?」
「どう...とは?」
「どうもこうもねえよ、あいつの様子を聞いてんだ」
「それは....部屋に入るなり私をベッドに押し倒して.......」
「そうじゃねえよ!.....なんかヘンなところとかなかったかってって話だ」
「ええ、そういえば何かの小箱を大切そうに抱えていました....行為中も」
それを聞いたベガは大声をあげて笑う。目には涙を浮かべ愉快そうに膝を叩く。
「はっはっは!!!あの野郎...あの小箱を抱えながら腰振ってやがったのか!!!!」
アリナは怯え切っている。
「は、はい.....」
「他には?」
「え、えっと....そうだ!.....闘技場の近くにあるチキン屋で食事をするって....」
「『ファンキーチキン』か.......オーケー、他には?」
「もう、ありま、せん.....」
そこまで聞いたベガは気まずそうに頭を掻きながら問いかける。
「そうかい...じゃあ、アレだ......一発と二発どっちがイイ?」
「え、えっと....助けてください!!!!」
「ダメだ....選べよ、な?」
「そんな....」
「安心しろよ、俺はプロだ。確実に天国へ行けるぜ」
アリナは助からないことを確信したのか、観念して答える。
「.....一発で」
「オーケー....じゃあ、最後に一つ…ポテトをシェイクにディップして食うアレ、どう思う?」
「わ、私はあまり好きじゃありません….塩辛いものは塩辛いままたべたいです……」
「同感だ….甘味と塩味みてえな本来混じらねえもんが混ざると大抵ロクなことにならねえ....まあ、ポテト自身にはディップされるソースを選ぶことなんざできやしねえがな」
ベガは部屋を出て、近くにいたボーイへ話しかける。
「ベガ様....」
「おいそこのガキ、部屋の中を掃除頼む......ただ、ラッキーだな」
「ラッキーとは?」
「ああ、ベッドは汚れてない」
KETCHUP:ケチャップ、完熟トマトを煮詰めて香辛料などを加えた調味料