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第二百九十四話 THE HAPPINESS

劇場を出た俺は暗くなるまで外をぶらつくも、特に収穫はなかった。

そうして宿へと戻り、義輝さんの部屋へと集まり、みんなと情報交換を行う。

ホワイトさんの部屋は滞在三日目とは思えないほど散らかっており、義輝さんの部屋へと急遽変更となったのだ。


予想通りというか、なんというべきか義輝さんはかなり几帳面だった。

「【主人公】....靴はそこで部屋履きへは履き変えろ、上着も入り口で脱げ」


「リイは....さすがだな」


「ホワイト!!私の寝床に座るな」


「そうだ....【主人公】、汗は流したか?」


「ホワイト!!寝床に足を乗せるでない!!」


と言った具合だ。


返り血などで着物が汚れるのは構わないそうだが、寝床や自分のテリトリーが汚れるのは許せないらしい。

いつもの寡黙な姿からは想像できないほど大声を上げる。


そうして俺たちは情報交換へ移る。


司会はホワイトさんだ。

「お疲れさん....今日収穫があったやつは手ェ上げろ」


その声に応えて手を上げるのは俺とホワイトさんだ。

「まあ、初日にしてはまずまずだな.....んじゃ、本題に入る前に【剣豪】とリイの旦那が今日何してたか聞いていいかい?どんな情報が活きるかわからん」


そうしてまず口を開くのはリイさんだ

「私は今日一日、街の酒場を巡り、酔っ払いやならずものの言葉に耳を傾けておりました。....ただ、大した収穫はございませんでした.....得た情報といえば、ダックマンという男が死んだということ、そして.....大通り劇場の向かいにございます『Five Coins』という酒場のシェイクという飲み物が美味なことだけですな」

俺は(やっぱ、美味いんだ....俺も今度飲み行こ....)なんてことを考える。


ホワイトさんもそのシェイクに興味を惹かれたのかそんなことを尋ねる。

「へえ...どんなシェイクなんだ?」


「バニラという香辛料を使ったもので、非常に甘くまろやかな口触りでした」


「いいじゃねえか....俺も明日飲み行くかな」


すると、リイさんが思い出したように口を開く

「そういえば.....『ハッピー』という言葉を口にした客のシェイクからは妙な香りがいたしました....」


「リイよ、どのような香りだったのだ?」


「はて...どのような香りだったか....」

俺は偶然に驚きつつもリイへと問いかける。

「麻の葉の香りですよね?」


「おっしゃる通りです!!よくご存知でしたね」


「それってよお....大麻だよな?」

ホワイトさんが訝しげに言う。


「ホワイト、大麻とはなんだ?」


「ああ、燃やした煙を吸うと頭がおかしくなる薬だ.....俺たちの故郷では違法だったし、帝国でも禁制品のはずだ」


「体に悪いと言う認識でよろしいのでしょうか?」


「ああ、リイの旦那のいう通りだ.....そういや、リイの旦那の故郷も千年後くらいに似たような薬でメチャクチャになるぜ」


「それは.......」

リイさんは少し悲しそうな表情をする。


「そのような薬に耽溺するような軟弱者がいるとは.....為政者は何をしておるのだ...ところで」

そこで義輝さんが俺をみながら、口を開く。

「リイはともかく、なぜ【主人公】は斯様なことを知っているのだ?」


「確かに...小僧まさか.....おめえ...」


「【主人公】さん....」


「いや、違いますから!!!......今日知り合った人から聞いたんですよ全く同じ話を」


「なるほどな...んじゃ、順番が前後しちまうが先に小僧の話を聞くか」


「わかりました.....」

そうして俺はミアとの出会いや劇場で聞いた話、そして怪しげな男について共有する


「......っと、いう感じですね、後これはお土産のポップコーンです!みんなで食べましょう!!」


「いいねえ...ジャンキーだ、塩味もちょうどいい」


「コーン....とうもろこしでしょうか?」


「はい!リイさんが喜ぶと思って!!」


「それは有り難い.....では、失礼して.......これは!......この不健康な風味、手が止まりませんな」


「ふむ....悪くない...........ホワイト!私の布団の上で食事をするな」


「まあまあ、硬えこと言うなよ......にしても、八百長ねえ....俺も今日行った賭場で全く同じ話を聞いたんだ。なんでもこの街の闘技大会は賭けの格好の対象らしいぜ.....つっても王者が決まってる以上は二番手が誰かを賭けるそうだがな.....ただ、外から来た金持ち相手から相当巻き上げてるらしいな、ここの領主は....」


「土地を主君から預かる身としてはあってはならない外道であるな」


「ま、【剣豪】の言う通りだ.....ただ、こいつが負けるとは思えねえが......なんらかのサイクが仕掛けられてる可能性があるな......俺は明日以降それを探る。リイの旦那も付き合ってくれや」


「承知いたしました」


「んじゃ、順番がめちゃくちゃになっちまったが...最後に【剣豪】、お前は今日一日、何をしていたか教えてくれ」


「........宿の庭で刀を振っていた」

義輝さんは若干俯きながらそう答える。


「一日中、ですか?」

俺はその答えに驚きつつも、思わずそう問いかける。

「.....ああ」


「それは....凄まじい体力ですな」

リイは素直に感心する


「まあ.....こういうのは俺らの仕事だ。お前は闘技大会で敵を全員真っ二つにしてさえくれればそれで良い」


「任せておけ」


「頼もしいね.....んじゃ、明日から俺とリイの旦那は宿に帰らない日もある....その都度宿にいるメンバーで情報交換だ、リイの旦那も悪いが観光はしばらくお預けだ」


「ええ、なんの問題もございません」


「.....わかった」


「わかりました!!」


そうして一段落したと思うと、ホワイトさんがニヤニヤしながら俺へ話しかける。

「ところでよお...小僧、やっぱお前はスミに置けねえな!歌手に直接コンサートに呼ばれるなんてよお!!」


「ちょっ...やめてくださいよ!!!」


「【主人公】.....お前には節操というものがだな.....」


「【主人公】さん、意馬心猿とは申しますが、さすがに.....」


「リイさんに義輝さんまで!!」


そうして、情報交換会は飲み会へと姿を変える。

俺のポップコーンの他にも、リイが酒場で購入した麦酒や義輝さんが宿の娘さんからもらったという干し魚などを肴に本格的な飲み会が始まる。


義輝さんの相変わらずなモテっぷりを話の種に宴会は盛り上がる。

「にしても、【剣豪】様はモテモテだねえ.....干し魚を貢がれちまうなんてな」


「黙れ...ホワイト、あの小娘は『剣の稽古の糧にするように』と言ってこれを手渡したのだ。他意などあるまい」


「足利殿....きっとそれはその『他意』ですぞ」


「ええ、リイさんのいう通りですよ!!」


「......ところでホワイト、先ほど話題に上がった『大麻』とはなんなのだ?」


「逃げるのk」

と、言いかけたところで義輝さんに睨みつけられホワイトさんは渋々と言った感じで大麻の説明を始める。

他にも、俺が劇場で見たミアの歌や人形劇、リイがバーで見かけた怪しい男、ホワイトさんが賭場で大負けした話などをしながらも、ホワイトさんが酒の飲み過ぎで嘔吐し、義輝さんの顔に鬼が宿るまで俺たちは馬鹿騒ぎをすることになる。

意馬心猿:心のなかに住む馬やさるのことで、駆けだした馬や暴れ回る猿を取り押さえるのが容易ではないように、人の欲情や煩悩の抑えがたいことをいう。


HAPPINESS:幸福

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