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第二百九十二話 THE Mr. RIGHT

大通りは賑わっている。年に一度のお祭り的な側面もある闘技大会の開催が迫っているからなのか、そこかしこに出店が出ている。人混みをかき分けながら、劇場へ到着する。劇場は巨大なサーカステントのような俗っぽい雰囲気を纏いながらも荘厳な気配を漂わせた石造の建物だ。


俺は受付でチケットを見せ、中へ入る。途中でポップコーンのような菓子を購入する。客層は貴族や商人のようなどこか裕福そうな人々が中心だ。


そうして、俺が席へ着いてしばらくしたのち舞台が始まる。入口でもらったパンフレットによると。およそ一時間ほどの前座の後、30分ほどの休憩を挟み歌姫の歌唱が始まるという演目らしい。

前座として登場するのは、滑稽なメイクを施した大道芸人や人形使い。

とくに、人間ほどのサイズはあろうかという巨大な人形を操る人形師の演劇は見事だった。内容は、ドジな道化が様々な仕事に挑戦するも毎回肝心のところでミスをしてしまう、という滑稽なものであったがこれがなかなか笑えた。特に、ピエロが盗賊の怒りを買い、剣で串刺しにされたかと思うと、ひょこっと起き上がるシーンは抱腹絶倒ものだった。

ほかにもオペラやバレエといったのものもあったが、正直俺にはよくわからなかった。

俺はそんな退屈な時間をリイたちへお土産に買って帰るポップコーンのフレーバーを考えるなどにしてやり過ごしていると、どこか飄々とした男の声が聞こえてくる。



「おっと、失礼....いや、わるいね」

そこには、座っている観客たちの前を屈むこともせず通り抜けていく男がいる。遅刻したクチだろうか......正直ああいう人は少し苦手だななんて思いながら、ステージを見つめていると男は幸か不幸か俺の横の席に腰掛ける。

「よっと、失礼するぜ........なあ、坊主、人形師ポパイの劇はもう終わっちまったかい?」

そうして、男はあろうことか俺へと話しかけてくる。

俺は無視するのも気が引けて小声で答える。

「ええ、ついさっき終わりましたよ」


「そうかい、残念だ。んじゃ、歌姫のご登場までは退屈だな」

男は結構大きめな声でそう言い放つ。否定する気はないが、周りの客たちが顔を顰めるのが見えた。


「ははは...」

男は黒いスーツにループタイ、腕に輝く黄金の腕時計、控えめなアフロという出立ちで、上品さの中に粗暴さを感じるような不思議な男であった。

そうして、前半の公演が終わり、休憩時間だとアナウンスが入る。


「はあ....ツイてねえな、さっきまで仕事をしてたんだ、そのせいで遅れちまった」

他の客が席を立つ中、男は座ったままそんな風に気さくに俺に話しかけてくる。

「そうなんですか...それはアンラッキーでしたね」

俺も適当に返す。


「ああ、サイアクだな......ところで、坊主、それはポップコーンかい?」

そう言って男は俺の抱えているポップコーンのカップを指差す。

「ええ、そうですが.....」


「ちょっと食ってもいいかい?腹ペコなんだ」


「構いませんよ」


すると男は俺のカップの中に入っているポップコーンを手で鷲掴みにすると口へ放り込む。結構食いやがった....

「サンキュー.......うお、こりゃチーズフレーバーか......イカしたセンスじゃねえか」


「はは....どうも」


「ていうか、坊主....その格好、旅人かい?」


「あ、はい....そうですが」


「じゃあ、あれだ.....この劇場の向かいにあるバーのバニラシェイクは試したかい?」


「い、いえ...まだですが」


「あそこのバニラシェイクは絶品だ。シェイクにしては少々根が張るが....40年前の製法をそのまま受け継いでいるらしい」


「へえ...そうなんですか」


すると男はわざとらしく小声になって

「ちなみに、『ハッピーか?』って店主のトマト頭に囁くとトクベツに大麻をブレンドしてくれるんだ」

と付け加えてくる。


「た、大麻ですか...いや、ははは...それは興味深いですね」

この世界に来てあまり日数は経ってないが、大麻が帝国において禁製品なのは知っている。俺は、この男の警戒レベルを少し上げつつなるべく動揺を悟られないように振る舞う。


「ああ、最高にハッピーな店だ」


「ほんと、そうですね....」


「ところで坊主....旅人ってことは闘技大会目当てかい?」


「え、ええ....参加はしないですけどね」


「それがいいな...ここだけの話ってわけでもないが...あれはウォレスの豚野郎が仕組んだ八百長まみれだからな....まあ、この街に住んでるやつどころか一度でもあの試合を見た連中はみんな知ってる話だがな」


「はは...そうなんですか」

俺は平静を装っているものの、その衝撃的な情報を受け、一言一句忘れないようにそれを脳へ刻みつける。


「ああ、だから....チャンプのアルカイドっつう犬っころ以外にはくれぐれも賭けねえこったな」


「それはどうもご丁寧に」


「ああ、いいってことよ....ポップコーンの礼だ...じゃあ、このイカれた街、エスポワルを存分に楽しんでくれ」



そうして、再度アナウンスが入り、再開が告げられる。


とうとう歌姫のご登場だ。

Mr. Right:(主に女性→男性の文脈での)運命の人

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