第二百九十話 THE JERK
俺たちは闘技場を出て、宿へと向かう。
「第一回戦までは、まだ数日ある。それまでに情報収集だな」
「はい、俺もそれがいいと思います」
そんな会話をしながら、俺たちは歩く。
そんなとき、ふとリイが立ち止まる。
「......リイさんどうかしましたか?」
「いえ...少々不思議な香りがしたもので」
たしかに言われてみれば、スパイシーでジャンキーな香りがする。
そう言ってリイが指差す先には、「ファンキーチキン」という看板を掲げるチキン屋がある。
「へえ...フライドチキンか......いいじゃねえか」
「それはなんだ?」
「油で揚げた鶏肉だ.....美味いぜ」
「なつかしい....よくケンタ行ってましたよ、俺」
ぼっちのクリスマス.....一人でパーティーバーレルを買って食べたのを思い出す。この世界にクリスマスはないが、似たようなものはある。未来へ帰れたら、アンジーと一緒にお祝いしたいなあ.......
「ちょうど昼時だしな.....【剣豪】さえ良ければあそこで昼飯を食おうぜ」
「私は構わん」
「ほう....フライドチキン.......香りからして美味しそうです」
俺たちは進路を変更し、店へと向かう。
そんな時、俺の肩に衝撃が走る。
「うわっ!」
どうやら、前から走ってきた男が俺にぶつかったらしい。
「前みろや!くそっ!」
小太りの男はそんな悪態をつきながら、走り去る。
「ツイてないなあ.....」
「.......失礼な方ですね」
「無礼な男であるな」
「にしてもよお、あの男.....すげえアヒル口だったな......アヒル男ってか!」
「ははは....ん?」
ふと、地面に小箱が落ちていることに気がつく。
「これは.....」
箱は厳重に鍵が閉められていて、中身は分かりそうにないがどことなく重厚な気配がする。
「【主人公】さん、その箱を見せていただいても?」
「はい....」
俺はリイへと小箱を渡す。
「......この箱.....相当高価なものとお見受けいたします」
「へえ....ラッキーじゃねえか、もらっちまえよ」
「いやいや...」
「私もそれがよろしいかと....」
「じゃあ、貰っちゃいましょうかね!!」
一悶着あったものの、俺たちは店でフライドチキンを購入する。
チキンはオーソドックスなものでかなり美味かった。
「ほう....なぜ、一向宗の僧侶共は斯様な美味なものを禁制にしたのであろうか......」
義輝さんはそんなことをボヤキながら、フライドチキンを割り箸で器用にバラして食べていたのが印象的だった。
JERK:「嫌なやつ」「うっとうしいやつ」といった意味で、無礼で不快な人を指すスラング。
誤字報告感謝!!!