第二十七話 欲望と癒しの街、「桃源郷」 前編
温泉いいですよね。
「んーーー」
馬車から降りて目一杯伸びをする。俺たちはいま、長い旅路を終えて「セウントの街」の中心部にいる。ここから、北に行くと温泉宿や土産屋が立ち並ぶ温泉街があり、南へ行くと売春宿やキャバクラなどがあるいわゆる色街へと行ける。俺たちはこのあと予約しておいた宿に荷物を置いて温泉街を散策する予定だ。それにしてもすごい人の量だ。前の世界の大阪や東京を思いだす。
「ここがセウントか、なかなかいいじゃないか....なあ、【主人公】くん」
「そうですね、ゴルドさん。誘っていただいてありがとうございます。」
「僕も君がついてきてくれて嬉しいよ。」
「中々、賑やかでイイトコじゃない...なんでもここの温泉はお肌にも効くらしいわよ、楽しみね〜アンジーちゃん。ここでもっと可愛くなれば【主人公】くんもきっとあなたにメロメロよ」
「そ、そ、そんなことより!!先ほどおっしゃっていた伝説の温泉というのはどちらにあるんですか?」
「さあ...流石の私もわからないわ、でも何日か滞在する予定だし、ゆっくり探せばいいわ」
「そうですね....」
「....皆、こっちだ。」
おしゃべりを切り上げて、ハンゾーの案内で宿へと向かってゆく。ここの街並みは日本にいた頃を思い出させてくれる。母さんと父さんは元気にしてるかな。俺が死んだあと、あっちはどうなったのだろう。悲しませてしまったかな。いや、案外なんとも思われてないのかもしれない。あんなに退屈で苦痛だった日本での生活も、いざ遠くにきてしまえば懐かしく思えてくる。ふと、そんなことに思いを馳せてしまうくらいにはこの街は日本に似ている。
一人旅をしているとどこかノスタルジックな気分になりませんか?私はなります。