第三話 よくある話と言ってしまえばそれまでで 序
過去編は本筋の合間に分割して投稿していきます。
俺の名前は【主人公】。花の男子高校生だぜ。.....と言っても俗に言う「オタク」である俺には恋人はおろか友達だっていない。
成績は悪くはないが.....地元屈指のバカ高だし、運動は得意じゃないし...部活も文学部の幽霊部員だし.....マジでなにもない、なんの変哲もない出来損ないだ。休み時間は購買のメロンパンを齧るか、机と一体化するかだ。....これでも、中学時代は校区外の私立中に通っていたんだが....まあ、あれだ、怠け者すぎたのだ、と言い訳しておく。
毎日学校と家を往復するだけのつまらない毎日。しかし、そんな俺にも普通じゃない部分が一つだけ存在する。
それは、全世界で大人気のMMO RPG 「カイザーオンライン」をプレイすることだ。自慢ではないが、俺はこのカイザーオンラインでトップランカーをしている。多くのランカーが所属する超大手ギルドのギルドマスターにして、俺自身もトッププレイヤーの一人だ。現実では、何の才能もない俺だがこのカイザーオンラインの中ではまるで英雄のように崇められている。ログインをすれば、誰かしらが俺のログインを喜び、クエストへ誘われる。なんなら、そのクエストへ同行するのだって順番待ちだ。夜が深まれば、みんなで高難易度のレイドバトルへ参加し、俺の指揮の元に敵を粉砕する。
「あーあ、俺も日本じゃなくてカイザーオンラインみたいなファンタジー世界なら生まれてたらなー」
思わずそんな言葉を口に出してしまう。
無理もない、今日は夏休みが終わって最初の登校日。気が重くならないと言うやつがいたら是非とも名乗り出てほしい。
そんなことを考えながら、コンビニで朝ごはんの菓子パンを購入し、改札をSuicaで通り抜け、駅のホームへの階段を降り、電車を待つ。
最近の日課であるボカロ曲を聴くために百均のイヤホンを耳につける。俺の前には1年以上同じ電車に乗っている名も知らぬサラリーマンがいる。
「〇〇行きの列車が間も無く到着いたします〜」
いつもの音楽、いつもの光景、いつもの退屈、金太郎飴みたいに変わり映えのしない1日が始まる。
もう夏だっていうのに、俺の日常は冬みたいに死んでいる。.......そろそろ、夏休みだ。今年もネトゲ漬けの夏休みか.........はあ...別に嫌じゃないんだけどね..
「っっ!!!」
にわかに周囲が騒がしい。誰かが俺に向かって何か言っているようだ。若干鬱陶しく思いながら、イヤホンを外して後ろを振り返る。
振り返ると、そこには目が血走ったおっさんがいる。そいつは俺を線路に突き落とそうと手を突き出している。....それが俺の見た最後の光景だった。
「あー、カイザオンラインのランキングが...」
俺はそんなことを考えながら意識を闇の中へと落とした。
【主人公】くんは享年15歳です。